第153話○真実を明らかにしてあっさり終わる……あれ?
サイン会も無事に終わり、お父さんにもあいさつを済ませて、ウイッグを取り外した状態で再び社用車に乗って事務所へ戻る。
「今日発売のCDよろしくお願いしますっていう名目での出演にしてあるから宣伝はよろしくね。」
「はい!判りました!」
「4人はもう来てるのかな?」
「そういえばRINEないね。」
その後も特に何もないまま10分ほどで事務所へ着く。車を降りると太田さんがスマホを見てこう告げる。
「私の方に連絡来てた。大石くんが20階の会議室2001を押さえてくれているからそこに来て欲しいって。一緒に行きましょうか。」
太田さんと一緒に地下から20階まで上がる。会議室2001へ入ると紗和は既に到着していたけど、彩春と大石さんはいなかった。
「戻りました!いろはは?」
「いろはは大石さんといま一階で4人が来るのを待ってる。」
「じゃあ、早緑さん、座って待ってようか。」
「そだね。」
私は紗和の隣に座る。圭司は私の前、明貴子の隣に座った。太田さんはここまで来たあと、電話がかかってきて、席を外してしまった。
「なんか、5月を思い出すよ。」
「あー、あのときか!」
「5月ってなにがあったの?」
紗和が私に尋ねてきた。
「雨東先生はまだ私が早緑美愛って知らなかったから、いきなりここに連れてきて、会議室で待ってもらっている間にさみあんモードになって、姿を見せて驚かせたの。」
「さみあんもけっこうやるんだね……。」
「でも、ほら、澄華も含めて、いまここにいる人はみんな私と同じことをしようとしているわけだよ。」
「あっ、そうか!考えてみればそうだね!」
そんな話をしていたら扉をノックする音が聞こえる。
「失礼します。」
最初に入ってきたのは大石さんだ。次に彩春が姿を見せる。
「ここで待っていてね。」
「ありがとう。あれ?朋夏も来てるのか。」
「うん、仕事の流れでね。このあと説明するよ。」
「番組の前にちょっと話もあるからね。」
「朋夏と彩春さん、了解。」
慧一くんは圭司の隣に座る。さらにその隣に幸大くん。私の左隣は華菜恵だ。その隣に志満が座って、彩春は志満の隣で入り口のそばに座った。大石さんは一番奥の方まで移動している。
私はそろそろ準備のためにウイッグを付けてしまいたいから私から正体を明かすのが良さそう。
「じゃあ、配信前にいろいろと話があるんだけど、時間もあまりないから何から話そうかな。」
「いろは、私からにしようか?」
「あっ、そうだね。」
私はうなずくと手持ちの紙袋からウイッグを取り出して慎重に付けていく。
「ええっ、未亜ちゃん、ウイッグでなにしているの!?」
志満の驚く声が聞こえる。
「さみあんモードになりました!」
「えっ、未亜ちゃんがさみあんになっちゃった!?さみあんって、未亜ちゃんなの!?」
「うん、実はそうなんだ。いままで黙っていてごめんね。」
「ええっ……。」
4人とも絶句してしまった。まあ、気持ちはわかるよ。
「じゃあ、次は俺かな?」
圭司が名乗りを上げる。
「それが一番良いね。」
「未亜が早緑美愛って判ったよね。早緑美愛の交際相手は?」
「雨東……えっ、圭司が雨東なの!?」
「おっ、慧一、即答か。そうだな。」
「ちょっと、俺、圭司の作品に絵を描いてたんだ!えっ、親友と実はそんな関係だったとかめちゃくちゃ嬉しいんだけど。」
「よかった!そういってもらえると嬉しいよ!」
「作品ってことならもう一つね。」
今度は明貴子だ。席を立つと4人のところへ行った。手には名刺入れを持っている。
「私はこういうものです。」
「……うえっ、あのベストセラー作家、朱鷺野澄華ってあきっちなの!?」
「うん、実はそうなの!」
「わたし、大ファンで小説もコミカライズも全部持ってるんだけど!」
「えっ、本当!?華菜恵、ありがとう!」
「俺、圭司ばかりか、明貴子さんの作品にも絵を描いてたのか!なんか、すごいな!」
「そうしたら私の番だよね。幸大くん、いろはの大ファンだよね?」
「うん、大ファンだよ。」
「私はいろはとは高校時代から大親友なのは知ってるよね?」
「うん、知ってる。」
「それで、いろはって高校の頃からコラボしていた大親友のVTuberがいるよね?」
「いるね、いまも活躍している日向夏へべすさ……えっ、日向夏さんって、もしかして。」
「あたりー!ンンッ、実は私なんだ!」
「声が朋夏さんから日向夏さんになった!」
「ちょっと待って!みんな超有名人じゃない!もともとそんな感じだったの?」
華菜恵がものすごい動揺した顔をしている!
「いや、最初は全然知らなかったよ。偶然が偶然を呼んだ結果が、こうなった感じ。」
「いろはっち、そうだったんだね……。」
「……あのさ、朋夏、いや日向夏さん。」
慧一くんの様子が急に変わった。なんだろう?彼女から正体知らされていなかったの怒っちゃったかな!?
「ん?慧一どうしたの?」
「昔さ、日向夏さんがとある歌い手とどうしても『チェネレントラ』のコラボをしたくて超長文メールで口説き落としたの憶えてる?」
「うん、もちろ……えっ、なんで、慧一、『チェネレントラ』のコラボで超長文メール書いたの知ってるの!?口説き落とした件はともかく、超長文メールの件は恥ずかしいから内緒にしてて配信でも話したことないのに……あああっ!!!!!そうか!慧一って
「うん、名字と名前の頭を取ったんだ。」
ちょっと、何が起きたの!?
「……えっ、もしかして、マスケイさん!?本当に!?」
紗和が突然立ち上がった。
「はい、マスケイです。」
「あの!マスケイさん!一度お目にかかりたかったんです!その節は、私の『明るい暗闇』を歌っていただいてありがとうございました!そのおかげで私は私は……。」
紗和が泣き出してしまった!?えっ、なにがあったの!?
「えっ、『明るい暗闇』っていうことは、ママダPですか!まさか、ママダPとお目にかかれるなんて!いつも素敵な楽曲をありがとうございます!いやあ、今日は驚いてばかりだ。」
コンコン
「ごめんなさい、ちょっと急な電話で……あれ?マスケイくん?マスケイくんもここの仲間内だったの?!」
「あっ、太田さん!はい、そうなんです。」
今度は太田さんまで!?何が何だかわらかなくなってきた!と思ったところに大石さんが立ち上がった。
「なんかちょっと混乱してきた感じがするんで、配信終わってからもう一回仕切り直しましょうか。そろそろ準備の時間ですし。皆さんが見てもらえるように今日はL01にしてあるのでそちらへお願いします。」
大石さんのこの一言で、私たちはL01スタジオへ移動する。本当はMスタジオのどれからしいんだけど、見学が多いので空いていたL01を使うことになったそうだ。スタジオ自体は既に準備が出来ていて、クロマキー用の垂れ幕も下がっている。簡単なリハーサルをして、あとは配信を待つだけだ!さっきの件は、配信のあとにまたみんなでしっかり話そう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます