第124話○未亜の邂逅

 朋夏主催の食事会から帰ってきて、お風呂を済ませたあと、ソファに座ってまったりし始める。早速、今日感じたことを圭司に話してみよう。


「今日の帰りに漠然と感じたことがあるんだよね。」

「聞くよ。」

「ありがとう。……あのね、普段芸能活動をしていると大人ばかりの世界で、スポットライトを浴びながら仕事をしているじゃない。そうするとなんか自分がすごいんじゃないかと勘違いしそうになってくるんだよね。」

「確かにメンタルの部分でそういうことはあるかもしれないね。」

「うん。未成年の駆け出しアイドルなはずなんだけど、スポットライトを浴び続けているとなんか感覚がずれてくる感じなんだ。」

「なるほどな。」

「でも大学にいる間は単なる学生だから、なんかほっと出来るし、ずれた感覚がちゃんと矯正されていく感じがしていたんだよね。」

「大学は日常の延長だもんね。」

「そうなんだよ。それがなんか今のままでいいのかなってよくわからなくなってきちゃって。」

「ああ、このところのあれこれで急に友人関係についてよく判らない感覚が出てきた感じかな。」

「そうなんだよね……。もちろん、素敵な親友たちで、これからも仲良くして、切磋琢磨していきたいし、みんなで過ごす時間はすごく楽しいんだけど……。」

「なるほどな。そうしたら、大学の授業とかで、気が合いそうな人がいたら関係を深めてみる、っていうのもいいかもしれないよ。ちょっと視点を変えられるから。」

「いまの親友たちとは別にっていうこと?」

「最初はね。」

「でも、なんかそのために近づくっていうのは、自分のことだけど、思い上がってないかな?」

「もちろん、『一般人の友達が欲しいから近づく』なんていうのは友人関係を芸能人と一般人と分けている時点で何様だって思うし、本当にそういう気持ちで接したら当然相手も感づく。」

「うん……。」

「でも、交友関係が広がること自体はいいことだからさ。感覚の件は一回忘れて、新しい友人を増やしてみよう、っていうくらいの気持ちでいればいいんじゃないかな。友達って、結局は気が合うかどうかだからね。」

「そか、そうだね。」

「明日のフラ語はグループトークって前回の授業予定に書いてあったから、いい機会かもしれない。それとみんなとも気が合いそうならランチを一緒にとってみて、いい感じなら一緒に遊ぶのは面白いと思うよ。」

「うん!わかった!頑張ってみるよ!」


 圭司は本当にすごいなあ。私のことを理解して支えてくれる。私も圭司のことをもっともっと理解して支えていきたい。

 そして、そんな話をした翌日の水曜日は2限のフランス語からスタート。哲大の語学は20人くらいで編成されていて、全員そろっても顔は見える感じだ。いつも座っている席に座って、圭司と話をしていたら先生がやってきていつものように授業が始まる。


「今日の授業はシラバスにもあるようにグループトークをします。テーマに沿って、フランス語のみで会話をして下さい。今日はちょうど20人なので、ではまず4人ずつでグループを組んで下さいね。」


 4人か。圭司とは組みたいから二人組の人はいないかな?

 あっ、前に座っている人が二人で話していて友達っぽい。よし、声を掛けてみよう!


「こんにちは。」

「あっ、こんにちは。」

「良かったらグループ組みませんか?」

「ぜひ、お願いします。ねえねえ、かなえちゃんもいいよね?」

「うん、しまっち、いいよ。」

「じゃあよろしくお願いします。あと一人ですかね。」

「あっ、実は彼氏が一緒にいるので、いいですかね?」

「いいですよ!彼氏がいるなんてうらやましいです。」

「すみません。よろしくおねがいします。」


 よし、いい感じに組めたね。

 先生が最初に出したテーマは自己紹介。早速、みんな名前を名乗り出す。私の前に座っていたのは棟居むねすえ志満しまさん。その隣に座っていたのは沼舘ぬまだて華菜恵かなえさん。そして私、圭司の順で名前を教え合う。そんな感じで趣味とか好きな食べ物とかをフラ語で説明する。なんかとても話していて楽しい。いままでの親友たちとはタイプが違っていて、話をもっとしたくなる不思議な感じがする二人。昨日思ったこととは関係なく、ふつうに友達として仲良くしたいなあ。また、来週のフラ語で声を掛けてみよう!


 無事に授業が終わって、さてランチだ、と思っていたら沼舘さんから声がかかる。


「あの、なんか話が盛り上がったんで、この流れで良かったらランチ一緒に食べませんか?」


 あっ、沼舘さんたちも私たちに興味を持ってくれたのかな?これは嬉しい!それならいつものメンバーのところに連れて行きたいなあ、誘ってみようかな。


「あっ!ぜひ!実はいつも食べている仲間がいるんですけど、良かったらそこで食べませんか?」

「えっ、いいんですか?突然一緒に行っても大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。みんな同じマーケの連中で、サークル仲間とかじゃないので。」


 圭司も声を掛けてくれた。


「しまっち、どう?」

「うん、友達は多い方がいいもんね!」

「じゃあ、一緒に行きましょう!」


 二人と一緒にいつもの6号館地下ろくちかへ向かう。今日は朋夏が最初に来ていたみたい。


「おつかれー、あれ?華菜恵ちゃん!」

「あっ、ともっちだ!」


 えっ、もしかして、沼舘さんもVTuber仲間!?


「華菜恵ちゃんの知り合い?」

「うん、春の英語で一緒だったの!」

「あの後なんかなかなか話できなくてごめんね。」

「ううん、ともっち、大丈夫だよ!」


 普通の知り合いか!びっくりした……。


「二人とはどこで知り合ったの?」

「さっきのフランス語でグループトークがあったんだよ。それで、なんか話が盛り上がって、ランチでも行こうっていうことになったんで一緒にきた感じだね。」

「なるほどね!」

「ほかのメンバーはまだ来てないんだね。」

「今日はなんかみんな来られないみたいだよ。さっきRINE来てた。」

「あれ?本当?」


 慌ててスマホを確認すると大学仲間のグルチャにメッセージが来てた。彩春は急な仕事でお昼から自主休講、明貴子は急用で昼は別で取る、瑠乃はサークルに顔を出す、升谷くんは別の友達とランチ、柳内くんは体調不良でおやすみ、とのこと。


「ありゃ。本当だ。せっかく二人を紹介しようと思ったのになあ。」

「仕方ないですよ。またの機会にぜひお願いします!」

「じゃあ、5人でランチしようか。」

「食べよう!」


 5人でランチを食べる。みんな哲大名物の日替わりワンコインランチ。日替わりワンコインランチはフードコートにある7店舗がそれぞれ出していて、どれもとても美味しい。私は本格インドカレー屋さんの焼きたてナン付きチキンカレーにした。


 5人の間で朋夏がいろいろと話題を振ってくれて、大いに話が盛り上がる。


「そのおかげでなんとかレポートを出せた訳なんだけどさー。」

「ともっち、よくがんばったね!」

「沼舘さんもなかなかですけどね。」

「そうだ!二人ともともっちとラフな感じで話しているなら私たちともラフな感じで話して欲しいなあ。」

「いきなり、いいの?」

「うん!だって同級生じゃない!」

「やった!嬉しい!」

「未亜ちゃん、朋夏ちゃん、高倉くん、よろしくね。」

「みあっち、たかっちってよばせてもらうよ!」

「私は呼び捨てでもいいかな?」

「うん、いいよ!」

「私もオーケー!」

「やったー!志満、華菜恵よろしくね!」

「志満さん、華菜恵さん、よろしく。」


 やった!輪が広がった!

 こうやって見ていると朋夏って誰に対しても同じように接するんだなあ。裏表がないというか。あっ、もしかしたら私の考えていたことって根拠のない単なるイメージでしかないのかもしれない……。もう少しみんなのことをしっかりと見て、きちんと考えて、圭司に話してみよう。


 ――――――――――――――――


【作者より】


 123話ですが、いろいろと操作をしているときに誤って削除してしまったようで、あらためて新規に立項しました。ハートなどを付けていただいてたのに申し訳ありません。

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