第132話●ふたりでのんびり

 紅白出場会見からのお祝いミニパーティのあと、みんなが帰ってから一緒にお風呂に入った。まだ恥ずかしくて前を洗いあうことはできなかったけど、湯船でくっついて話はできるようになってきた。いい意味で少しずつ慣れてきたんだと思う。身体はまだ反応しないけど、ちゃんとお医者さんに看てもらっているのだから焦らずに行こうと思う。

 お風呂から出て、のんびり雑談をしているとこの前の不安感の話になる。


「誕生会と今日とみんなで話をしていて、改めて、私が感じていたことは私の思い上がりだったんだなって思ったよ。」

「そう?」

「うん。確かに話している内容のうわべだけ見ると芸能人っぽい話ではあるけど、実際は大学とかで話している内容の延長線上で、みんな普段と全然変わらなかったんだなって、今日改めて感じたんだ。」

「そっか、やっぱり未亜はちゃんと自分で気がつけたんだね。でもそれは思い上がりじゃないと思うよ。」

「そうかな?」

「だって、いままで利害関係のない普通の友達だと思っていたのが、あっという間にみんな同じ事務所に所属する仕事仲間になってしまって、しかもそれぞれに一線で大活躍している人たちだった。しかもリムジンや高級レストランなんて、いままで縁もゆかりもなかったものと急に接点が出来たら、そこに損得勘定みたいなものが入るんじゃないかって不安になるのは普通だと思うよ。」

「ああ、そうやって言語化されると私が何に不安を感じていたのかがよく判るね。」

「確かに話題はすごい話をしているように見えるけど、実際には大学で話している内容と大して変わらない地続きの延長線上にある。その感覚を失わなければ大丈夫だと思う。」

「やっぱり圭司ってすごいね!」

「そんな未亜がすごいと思っている俺を闇の中から救い出してくれたのは未亜だよ。だからこれからもお互い率直に悩みを相談し合おう。俺は『相手役』として未亜を支えるし、未亜には『相手役』として俺のことを支えて欲しい。」

「うん!お互いに『相手役』だもんね!」


 嬉しそうな未亜が愛おしくなって思わず抱きしめてキスしてしまった!未亜は目をまんまるにして顔を真っ赤にしたあと、うなりながら俺の胸に顔を埋めた。やっぱり未亜ってかわいいなあ。頭をなでたり、なでられたり、抱き合ったりして、しばらくイチャイチャしているとなんとなく家具の話になった。


「ここのところで、朋夏さん、彩春さん、紗和さんの部屋に入ったけど、みんな家具を結構統一したデザインにしていたのがとても素敵だったね。」

「確かに!みんなの趣味が判って面白かった。」

「あの頃はなんかそういうこだわりがなくてお互い家具を持ち寄ったけど、改めて必要な家具を考えた方がいいかもしれない。」

「そうだね。最近、うちにくるお客さんも増えて食器を増やした方がいいかなって思ってたんだけど、食器棚は小さいのが一つしかないから大きい食器棚は必要だよね。」

「欲しいね。食器はまた別で見なきゃいけないけど、それは改めて買いに行こう。」

「そうしよう!」

「あとはリビングにこたつ置く?夏は普通のテーブルとして使えるタイプにして。」

「そうだね!そろそろあった方がいいかも。できるだけ大きなこたつが欲しいかも。」

「いまテレビの前に置いているテーブルは飲み物とかを置くくらいにしか使えないからあれはうちの実家に戻すよ。」

「うちもそうだけど、両親がちゃんと部屋を残しておいてくれて助かるよね。」


 こういうのって実家を出たら普通はどうするのかな?今度上京組に聴いてみようかな。


「あとは、最近一緒に寝ることが増えて、シングルだとやっぱり狭いからダブルベッドを買おうと思う。」

「……嬉しいな。」

「うん、ここまで考えられるようになったよ。本当にありがとう。」

「うん!本当は毎晩一緒に寝られるように寝室用意したいけど、いまの間取りだと難しいもんね。」


 いついおうかと思っていたけど、これはいまいうべきだな。


「……ベッドが届いたら、これからは毎晩、俺の部屋で一緒に寝ない?」

「えっ!」

「俺の方は未亜が外で仕事をしている間に書くことが多いから、夜はのんびりして、あとは寝ちゃうじゃない。だから部屋を俺専用にしておく意味があまりないんだ。それより寝室兼用にして一緒に寝たいなって。」

「……嬉しい!」

「未亜の方も一応いまのベッドは残しておこう。万が一、徹夜で書かなきゃいけないみたいなことがないとも限らないから。」

「……そうしたら私の方もダブルベッドにしようかな……。多分大きさ的には入ると思うんだよね。」

「うん、入ると思う。あっ、それなら気分で毎日寝る部屋を変えてもいいかもな。」

「うん、そだね!そうしよう!」

「……その、一歩先に進めるのは、待たせていてごめんね。」

「うん、それは仕方ないよ。ちゃんとお医者さんにかかっていて、私も状況については説明を受けているから大丈夫。どんなに時間がかかっても待つつもりだから安心してね。くれぐれも焦りだけは絶対に禁物だよ。」

「ありがとう。そういってくれるからこんなに早く立ち直れたんだよ。」


 俺は両親だけでなく、彼女と親友たち、そして事務所にも恵まれた。本当にありがとう……。


 そんな感じで話をしていたらいったん、全部の家具をなかったことにして、何がどれくらい必要なのかを見てみようということになった。

 二人のスケジュールを確認して、水曜日の授業終わりなら時間が取れそう。普段贅沢をしていない分、これから先の生活も考えて、長く使えるいいものをちゃんと買った方が良いだろうということで、売り場が大きくてたくさんの家具が並んでる、春日部の匠向原まで家具を見に行くことにした。


 春日部までタクシーはさすがにお金がかかりすぎるので、レンタカーを借りることにした。スマホで確認すると大学の近くにあるジパングレンタカーに軽自動車の空きがあったので、すぐに予約してしまう。


「考えてみるとドライブは初めてだよね。」

「そういわれてみれば!」

「安全運転でね。」

「もちろん!次は未亜の運転する車にも乗せてね。」

「うん!」


 そして、こういう配置が必要なものを搬入する手続きが判らなかったので、太田さんにRINEで確認する。


「けっこう面倒な感じだね。」

「本当だね。」


 返信によると業者をそのまま入れるわけにはいかないので、1階の警備員室で受け取って、警備員が大崎の社員立ち会いの下で搬入するとのこと。組み立てまでやってくれるんだとか。警備員の増員と立ち会いの兼ね合いを踏まえて、そのまま太田さんとやりとりして、来週の月曜日午後搬入で依頼をした。午前中にいまの家具を搬出して、実家に届けてもらう手配も済ませた。もちろん両方の実家には平行してRINEをして、届く日だけを伝えればいいことになった。

 あとは、基本的に本人は立ち会わないで欲しい、という話。その日はもともと未亜は大学の授業後にすぐテレビ番組の収録があるから問題ないけど、俺の方はどうしようかと思案していたら未亜が事務所仲間のRINEで聴いてくれていて、朋夏さんの部屋で彩春さん、紗和さんと一緒に雑談できることになった。女性の部屋にマンツーマンになるのは抵抗感があるだろうという配慮みたいで本当にありがたい。そのあと、瑠乃さんと明貴子さんも来たいとのことで人数がさらに増えた。


「ここまで増えると私も参加したくなるよね!」

「また、ホームパーティしてもいいかもな。」

「うん!絶対にしよう!」


 改めて自分たちの生活のために家具を買いに行くのっていいな。あさってを楽しみにしよう。

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