第131話○盛り上がる仲間たち

 紅白の記者会見が無事に終わったあとは、シブヤオンガクの取材班に仮設楽屋でインタビューをされる。そのあとは出待ちをしているスポーツ紙や音楽情報誌の記者たちによる個別の取材を太田さん同席で受けた。それが終わって、ようやく解放されたのは、15時を回ったタイミングだった。


 もう取材はないので、NKHの仮設楽屋にある更衣室で持参した私服へチェンジしてしまう。着ていた衣装やウイッグは、心菜ここなちゃんの番組収録に立ち会う太田さんへ預け、私はNKHからタクシーで自宅に帰る。もちろんちゃんと通用口を使ったよ!


 一息入れてRINEを見たら事務所仲間のグルチャは大盛り上がりだった。これはお礼を流しておかないと!


 [いまおわりました!みんなありがとう!}


 一斉にみんなからに再度お祝いが飛んでくる。本当に嬉しいなあ……。ほかにもお父さんお母さんに弟、私が早緑美愛と知っている6年次の担任の先生、鶴本さん、百合ちゃんとたくさんのRINEが来ていて、その一つ一つにお礼を送った。

 圭司はもう家にいるって個別にRINEが来ていた。家に着くのは17時過ぎるくらいかな。今日の感想を早く話したい!


 ピンポーン

 鍵が開く。扉を開けて玄関に入った瞬間。


 パーン!パーン!パーン!パーン!


「えっ!なに!なに!」


 突然の破裂音にびっくりしていると……。


「「「「「「未亜、紅白出場、おめでとう!」」」」」」


 なんと、圭司のほかに朋夏、彩春、瑠乃、明貴子、紗和がいる!


「……みんな!ありがとう!紅白に出ます!」


 クラッカーでお祝いをしてくれたみんながケーキや料理を持ち寄ってくれて、ちょっとしたパーティみたいになった。


「心菜ちゃんはお仕事で来られないっていっていたからメッセージ預かったよ!」


 彩春はそういうと心菜ちゃんからのボイスメッセージを聞かせてくれた。

 最近、心菜ちゃんは本当に忙しい。芸能科のある夜明女子高校に通っているので、仕事があると休めることもあって、日中からどんどん仕事をこなしている。

 それなのにわざわざ時間を取ってボイスメッセージをくれるなんて、本当に嬉しい。


 ご飯をつまみながら話をしていると明貴子がしみじみとつぶやいた。


「大好きで応援していたさみあんがまさか大学の親友で、しかもさみあんの紅白初出場をこれまた大好きな日向夏さんや儘田先生と一緒にこんな形で直接お祝いできることになるなんて、今月の頭には予想もしていなかったよ。」

「それは私も同じだよー!早緑様と直接話して、お祝いできるなんてね!」

「サイン会もシークレットライブも落選したけど、十分お釣りがくるね!」

「明貴子、申し込んでたの!?」

「未亜、なにいってるの!?当たり前じゃない!」

「サインならいつでもするし、シークレットライブは私の持っている招待席回すからね!?」

「えっ!?本当!?やった!今度、CD渡すね!」

「実はシークレットライブ、太田さんからチケットもらえることになって、行けるんだよね!楽しみ!」

「私も!」

「えっ!?紗和と瑠乃も来るの!?」

「ダメ元でこの前聴いたら昼の部も夜の部も関係者用が余りそうだからいいよって。」

「私も勉強のためにっていったらもらえることになった!夜の部の方はいま一緒にレッスンすることの多い圭司くんの妹さんも一緒だよ。」

「えっ、百合も!?特に連絡来てなかったんだけどなあ。」

「圭司くんはいくの?」

「うん、関係者席を回してもらえることになってる。」

「招待席と関係者席って何が違うのかな?」


 紗和がもっともな質問をしてくる。


「私のライブは、だけど、ホールでやる場合は招待席は最前列のちょっと見にくいところが多いかな。関係者席は一番後ろとか二階席とかが多いね。ライブハウスだと招待チケットはほかのお客様と同じフロアで、関係者チケットだと専用エリアに入れるっていう感じ。」

「へー、そうなんだ。私も興味あるんだけど、マネージャにいって関係者席回してもらおうかな。」

「私は昼の部も夜の部も招待席4枚もらっているから彩春は招待席使う?」

「いいの!?」

「うん、いまのところ、朋夏と明貴子だけだから。」

「やった!」

「みんなで一緒に早緑様のライブ見に行こうっていってたのがこんな形でかなうなんて!」

「私はステージの上だから一緒には見られないよ!むしろ私はみんなから見られる側だよ!」

「みんなで未亜のこと、鑑賞しないとね!」


 紗和がニヤニヤしてる。もう、紗和もだいぶいうようになってきたなあ!いいことだし、嬉しいけどね!


「ほんと、こんなふうに日向夏さん、さみあん、西陣さん、儘田先生と親しく会話できるようになるなんて夢のようだよ……。日向夏さんの配信で知って、さみあんも好きになって、ファンクラブに入った、あの頃の私に教えてあげたい!」

「あっ、明貴子も早緑様のファンクラブ、入ってるんだ!」

「もちろん!……ほら。」


 明貴子がお財布から取り出して見せてくれた会員証は91番だった。


「91番か。じゃあ、アレンジインスト持ってるね?」

「アイマイのでしょ?あるある!」

「ここに私のファンクラブの100番未満が3人もいるってすごいね。」

「ほんと、すごいよね。」

「そうだ、圭司、あれ見せてあげれば?」

「あっ、そうか。ここなら大丈夫か。」


 そういうと圭司はお財布から2枚の会員証を出した。


「えっ!1番!?」

「すごい!72番だけじゃないの?」

「えへへー!実は1番は彼氏が出来たらあげたくて取っておいてもらったんだ!」

「あー、その気持ちわかる!」

「私もファンクラブを作ろうかっていう話が出ているんだよね。私も沢辺さんに話して、1番は彼氏が出来たときのためにとっておいてもらおうかな。」

「じゃあ、2番が欲しい!」


 明貴子がすかさず予約をしている!


「明貴子、さすがだね。」

「明貴子はファンクラブとか出来ないの?朱鷺野先生のファンクラブが出来たら私はいりたいよ。」


 そういって話に入ってきたのは紗和。そういえば紗和は朱鷺野澄華の大ファンだっていってたよね。


「作家のファンクラブってどうなのかな?需要あるのかね?」

「どうなんだろうなあ。作家に作れるなら紗和さんにも作れそうだよね。」


 今度は彩春が身を乗り出す。


「ママダPのファンクラブとか出来たら入りたい!瑠乃も入りたいよね?」

「それはぜひ入りたいね!」

「今度、太田さんに三人で聞いてみようか。」

「そうしよう!」

「うん、聴いてみよう!」


 私はふと思ったことをつぶやいてみる。


「ここにいる6人って、それぞれがそれぞれの大ファンなんだなあ。それでいて親友でもあるって、なんかこういう関係性っていいね。」

「本当にそうだよね。その上、こうやって知り合って、いままでそんなに興味のなかった人も好きになれる。」

「たしかに。俺は恋愛小説とかほとんど読まなかったけど、朱鷺野先生の作品は読んで面白いなあって、思ったよ。」

「私も雨東先生の作品読んで、女性人気が高い理由がわかった。ファンタジーものって苦手だったけど、雨東先生の作品は面白いよね。」

「そういえば、瑠乃の歌ってみた全部聴いたよ!『メルティング』とか『QUEEN』とか『千本並木』とかものすごい良かった!ボカキャラ曲、結構歌っているのに私の曲がなくて少し寂しかったんだよね。私のボカキャラ曲も歌ってよ!」

「いま、私だけファンがいないっていおうと思っていたら……。ママダPの曲は私みたいな無名は歌いづらかったんだよね……。でも作者のリクエストだし、頑張ってみる!紗和、ありがとう。」

「歌ってくれたものが良ければTwinsterで推薦しちゃう!」

「作者の拡散は日向夏へべすの配信並みに強そう。」

「いいものだったら私もまた配信で推薦しちゃうよ!」


 本当にこういう関係っていいなあ。こうやって話をしながらあらためてみんなのことをしっかり見ていると普通に同じような目線で会話できるし、感覚のずれがどうとか私の思い上がりだったんだな……。紅白が決まってちょっと調子に乗っていたのかもしれない。もっと謙虚に行かないと。何でも相談できる圭司がいて、そしてそういうことに気がつかせてくれるこの仲間がいて。私は本当にありがたい環境にいるんだなあ……。


 みんなで話が盛り上がって、ダイニングからソファーへ行ったり、みんな部屋の中であっち行ったりこっち行ったりして親睦を深めている中、紗和が少し離れた廊下にいてこちらを見て小さく手招きをしている。なんだろう?と思って近づくと耳元でひそひそ話。


「大晦日の曲、楽しみにしてる。」

「えっ!?」

「うん、古宇田こうださんから連絡があったの。それで、未亜は知ってるって聞いたから。」

「あっ!なるほど!そうか、作者にも連絡行くんだね。」

「そうなの。とりあえずそれだけ。」

「紗和もありがとう。」

「うん!」


 作者から直接期待の声をもらえるなんてなかなかないことだと思う。NKHホールで歌うのがいまから本当に楽しみだ!大学へ入学したときには一人だったのにこんなにも素敵な仲間が出来るなんて……。圭司と出会えたことがすべてのきっかけなんだよね……。本当にいろいろなことがあったけど、このつながりを大事にしていきたい。

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