第115話●紗和の相談

 岡里さんによる誕生日お祝いホームパーティーはさっそく岡里さんから二人にRINEがとび、二人とも喜んでくれたとのことだった。

 同じ階の5人グループとは別にいままでなぜかなかった6人のグループチャットが岡里さんの招待で開設され、日程をすりあわせた結果、来週の土曜日夜に開催されることとなった。


 その翌日の朝、今度は甘巻さんから「お二人に相談があります」というRINEが届いた。


「何だろうね。」

「誕生日の件かな。」

「あっ、それだね!」


 RINEでやりとりして、今晩、未亜の仕事が終わったあとに話をすることにした。


「今晩は、17時からFM WAVEの生放送か。」

「うん、前半のコーナーゲストだから18時には出られるよ。」

「じゃあ、19時過ぎには帰ってこられそうだな。」

「そうだね。」


 未亜が仕事終わりにRINEを送ると甘巻さんの方から「うちの部屋で良かったら」というお誘いが来たので、二人でお邪魔することに。


「お邪魔します。」

「ようこそ。入って入って。」


 甘巻さんの部屋は全体的にファンシーだった。こんな感じの趣味だったんだな。テーブルは6人くらい座れる感じになっている。みんなだいたいそれくらいのテーブルにするんだなあ。


「突然ごめんなさい。多分気がついていると思うんだけど、誕生会のことなの。」

「うん、そうかなと思ってた。」

「あのね、もちろんいやだなんてことはなくて、とても嬉しいんだ。嬉しいからこそ、二人に相談をしたくて。」

「どんな相談?」

「えーと、その前にこのところの話をさせてね。」

「うん。」

「この前2回目の食事会をして盛り上がったでしょ。」

「あれ、楽しかったね。」

「うん、またやりたい!それでね、そうしたら翌日にも岡里さんが『今日はうちで一緒にご飯食べよう』って誘ってくれたの。」

「そうなんだ!私はRINEくらいしか出来なくてごめんね。」

「ううん!だって、早緑さん、忙しいもの。RINEでくだらない話をやりとりできるだけでも本当に嬉しいんだよ。」

「そか!よかった!」

「うん!それで、私は夜には曲作りが出来ない性格だから日中に集中してやっちゃうんで、夜はけっこう時間あるのね。前は一人でも全然寂しくなかったのに友達が出来たら何か一人で食べるのが味気なくなっちゃって。そのときにそんな話をしたら岡里さんが『私も新人声優で夜は特にすることないんだけど一人ご飯が寂しくてつまらなかったから一緒にご飯食べよ!』っていってくれて。この10日くらい、二人の部屋を行き来して、ご飯をほぼ毎晩一緒に食べていて、いろいろな話をしているんだ。」


 金曜日にも聴いた話だけど、岡里さんもこういうときにすごい行動力を発揮するなあ。さすがだ。


「すごくいい感じだね。岡里さんとは元々知り合いだったというのも大きいのかも。」

「雨東先生のいうとおりだと思う。曲作りでかなり突っ込んだやりとりもしたしね。」

「太田さんからのお願いとはいえ、紹介して良かった。」

「うん!本当に感謝してる……。あと、実はここなちゃんともけっこうRINEしていて、たまに通話なんかもしてるの。ここなちゃんって、元々私の曲が大好きで聴いてくれていたみたいで、すごく懐いてくれてるんだよね。年下ということもあって、なんか妹みたいに思えてきて、すごく大事な存在になりつつあるんだ。」

「ここなちゃんは人懐こくてかわいいから。」

「うん、そうなんだよね。それでね。二人はよく知っているとおりの理由で、高校三年間ほとんど引きこもっていたからリアルな友達がいなくて、たぶん距離の取り方とかよくわかっていないんだけど、五人ともすごく上手く接してくれていて、本当に嬉しいんだ。だから五人は私にとっていまやかけがえのない存在。」


 俺も含めてそんなことをいってくれるのか……。


「前は本名は使いたくないっていったけど、いまは五人にはむしろ本名を呼んで欲しいなって、そこまで思えるようになった。だから、今度の誕生会の時に三人に私の過去を正直に伝えたいって思ったの。でも、そうすると雨東先生のことにも触れることになる。週刊誌の一件で世の中的には既にあれはすべてねつ造だったっていうことになっているから、みんなに話していいか、あらかじめ確認しておきたくて。」


 甘巻さん、ついにそこまで。飯出さんと岡里さん、上水さん、未亜のおかげだなあ……。


「俺は問題ないよ。もともと飯出さんと岡里さんには何処までが事実でどこからがねつ造だったのかを説明してあるから。上水さんにはその話をしたあとあらためてしっかりと話をすればいいと思う。それに俺も未亜や儘田さん、みんなのおかげで少しずつ前に進めている。儘田さんもそれで前に進めるのであれば、伝えて欲しい。」

「よかった、ありがとう!」

「圭司がいいなら私は問題ないよ。だって、私はそれに対して何かをいえる立場にないから。それでなんだけど、当日、『私は既に全部知っている。その上で儘田さんと友達になった』って伝えたい。いいかな?」

「うん!ありがとう!」

「俺も今回の誕生会でちょっとした考えがあるんだけどね。」

「圭司ごめん、その前に一ついいかな。」


 なにやら未亜が決意した顔になった。なんだろう。


「それを話すのであれば、私から二人にお願いというか提案があるの。でもその前に私の話を聞いてくれるかな。」

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