第005話●久しぶりのファミレスにて

 大型連休が明けて、大学が再開した木曜日の授業は午前中でおしまい。ランチを食べようと久しぶりに未亜とソコスファミレスへやってきた。本当にのんびりとランチを食べながら話をしているだけだけど、こういう時間が何より嬉しい。


「連休中は全然会えなかったし、今週末はどこかに行こうか。土日は空いてる?」

「ごめん、土日は泊まりがけでお父さんの実家に行かなきゃいけなくて。法事だから私だけ行かないっていうわけにもいかないんだよねー。連休あえなかったからデートしたかったんだけど。」

「家の用事なら仕方ないよ。子どもには拒否権ないし。来週の土日はどこか行きたいね。」

「そだね。予定を確認しておくね。」


 付き合い始めてからデートらしいデートが出来ていないんだよなあ。池袋のサンセット水族館とか浦安のドリームワールドとか二人で遊びに行きたいところはたくさんあるんだけど。


「そういえば未亜はサークルは入らないの?」

「今のところはいいかなあ、って。でも、何人か友達は出来たけどそこから広がらないのはサークルに入っていないからなんだろうね。」

「履修科目も確定したし、今日あたりから語学の授業が本格的に始まるから授業でもだいぶ出来るんじゃないか?俺ですら少しずつ増えてきているしね。」

「圭司は結構その辺すごいよねー。見習わないと。」

「ある程度親しくなったらお互いに紹介し合って輪を広げるのも良いかもな。」

「そだね。圭司はサークルどうするの?」

「俺もサークルはいいかなあ。二年になったらゼミが始まるだろ?今のところゼミに入るつもりなんだよ。マーケのゼミって取っても取らなくてもいいかわりに結構どこもキツいみたいだからサークルと両立出来ないかもなあ、って。」

「確かにそういう話は聴くね。だから私はゼミはやめておこうかなあって思っているんだけど、圭司が入るなら考えようかな……。」


 ♪~

 突然、音楽が鳴る。これは俺の電話か。あー、電源切り忘れてたんだなあ。留守番電話へいってないから話してこないとだめだ。


「ごめん、うっかり電源切り忘れてた。ちょっと電話してくるわ。」

「あっ、うん、行ってらっしゃい。」


 かかってきた相手と電話をして、席に戻る。なんか未亜が何かを聴きたそうな顔でこちらを見ている。何だろう?


「待たせたな、悪い。」

「あっ、うん、それはいいんだけど……。ねえ、いまの曲って好きな曲なの?」

「曲?」

「うん、着信で流れた曲。」

「ああ、これは高校の時から推しているアイドルの曲だよ。といっても連休中に初めてライブに行ったくらいの浅いファンだけどね。気になった?」


 未亜がなんかすごくいい笑顔になった。


「うん、いい曲だなあって思って。ねえねえ、そのアイドルってどんな感じなの?」

「そうだなあ。アイドルって、グラビアやったり、バラエティ番組出たり、っていう活動の方がメインの人たちが多いんだけど、完全に音楽に振り切っているんだよね。もちろん完全にないわけではないんだけど、握手会とかもしているから。だけど、サイトのスケジュール見ると予定がほとんどライブで、テレビも音楽番組ばっかり。CDは一通り持っていて、どれもものすごい良い曲。あー、抽選に外れてボーナストラックの入ったCDは持っていないから一曲だけアレンジ版が聴けていないんで、あれだけはちょっとどんな曲か判らないか……。いま普通に聴ける曲だと世の中的には田靡たなびき虹花ななかさん作詞、大木戸おおきど世津子せつこさん作曲の『私発あなた行き』の評価が高い。でも俺は儘田ままだ海夢みゆさんの書いている『主役』っていう曲を一押ししたいかな。あと、前に写真集を出したんだけど、買ってみたら水着とか全くなくて、ライブで歌っているところとか、楽屋でスタッフと話しているところとか、レコーディングしているところとか、全部音楽活動に関する写真だったんだよ。まさか写真集までそんなことになっているとは思わなくて……未亜?」


 未亜がびっくりした顔をしている。あっ、調子に乗って語りすぎたか!


「あー、ごめんごめん、勢いがすごくてびっくりしちゃった。」

「ちょっとしゃべりすぎたな、ごめんね。」

「ううん、いいよ。圭司、そのアイドルのこと、本当に好きなんだね。」

「好きっていうか、『推し』だよね。好きっていうのとはまたちょっとベクトルが違う感じかな。」

「へえー!面白いね。ちょっと興味があるかも。」

「おっ、それならCD貸そうか?とりあえず1stアルバム、明日持ってくるよ。」

「うん、ありがとう!」


 未亜がとても嬉しそうな顔になった。これはもしかして興味を持ってもらえるチャンスかもしれない!


「じゃあ持ってくるな。」

「楽しみにしているね!」

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