第017話●独占インタビューの取材

 未亜の事務所で同棲のためのいろいろなことを話し終えてから3日。5月ももうあとすこしという木曜日、週KAKUこと週刊KAKUKAWAの取材を受けるため、KAKUKAWAの本社へとやってきた。今日の取材では身体だけだが写真に撮られる。今日の授業は2限までということで終わったあと、いったん帰って、こういうときのために用意したスーツに着替えた。もちろん未亜と一緒だったけど、初めて家に来た未亜がちょっと喜んでいたのはかわいかった。


「すみません、雨東と申します。第一出版事業部の白子しらこ弓彦ゆみひこ様とお約束頂戴しています。」

「いま確認しますので少々お待ちください。……確認取れました。こちらを胸に付けて頂き、あちらのエレベーターで6階までお上がりください。」

「はい、ありがとうございます。……ほい、未亜、これ。」

「ありがとう、さすがに顔パスとはいかないんだね。」

「有名な文豪とかならそれでもいけそうだけどな。まあ、天下のKAKUKAWA、出入りする人数が桁違いだよ。」

「そうだよね。あ、太田さんからRINEだ。……太田さんはもう会議室にいるって。」

「了解。じゃあ、普通にいけばいいな。」


 エレベーターを降りると打ち合わせでいつも使っている会議室へ入る。既に白子さんと太田さん、あと知らない人が二人、機材のセッティング中みたいだ。


「白子さん、対面ではご無沙汰しています。」

「雨東先生、こんにちは。今日はよろしくお願いします。そちらが早緑さんですかね?はじめまして。KAKUKAWAの白子と申します。」

「あ、私、名刺なくて、すみません。早緑美愛です。よろしくお願いします。」

「美愛には別に控え室を用意してもらったの。中野の衣装も用意してあるから着替えましょう。着いてきて。」

「はーい、じゃあちょっといってくるね、!」


 そういうと未亜は太田さんと一緒に出て行った。


「いやあ、先生がいま注目されはじめている早緑美愛と恋人関係なんて、思いもしませんでしたよ。」

「本当にたまたまなんですけどね。」

「今日はその辺の話もお願いします。それにしてもいろいろ忙しいのに連載もちゃんとあげられていてすごいです。結構みなさん止まっちゃうもんなんですが。」

「楽しみにしてくれている読者に迷惑をかけることはしたくない、という建前で、実際は彼女が熱心な読者なので止めると怒られるんです……。」

「それはプレッシャーがきつい。」


 白子さんが苦笑している。


「今日のインタビューは再来週発売の週KAKUでしたっけ?」

「そうですよ。6月9日発売です。全く別の予定校を突っ込んで場所だけ確保した状態で校正を回します。ギリギリまでこのインタビューは突っ込まずに別ルートで校閲通して直前に差し替えです。」

「そんなに厳重体制なんですか!?」

「完全な独自スクープですから。ちなみに週KAKUの連載『いま注目のアイドル』で今回は早緑さんを起用しています。なもんで再来週の週KAKUは早緑さんのインタビューが今回の記事とは別でもう一本載ります。それと『注目のアイドル』は表紙にもなるので、必然的に表紙は早緑さんです。」

「破格の扱いですね。」

「そりゃ、先生の相手がどんな人なのか、そこが皆さんの一番の注目点になりますからね。表紙も含めて万全の体制にした方が確実に売れます。あとアニメ化プロジェクトの第二報も突っ込んでます。」

「さすが……。」


 白子さんの執念に驚かされていると「さみあんモード」にチェンジした未亜が入ってきた。


「お待たせしました!」

「では、インタビューをはじめましょうか。カメラさん、雨東先生は顔が写らないように配慮願います。」


 インタビュアーが入っていろいろと聞いてくるので二人で回答をしていく。大学での出逢いに始まって、それぞれのファンであること、どんなところが好きでファンになったのかなどなど。1時間くらい掛けて丁寧に話を聞かれていく。今度一緒に住み始めることも語った。


「はい、こんな所ですかね。今日はありがとうございました。初校が上がったらお送りするのでお手数ですが、確認お願いします。先生はご自身でチェックされますよね?」

「そうですね。」

「早緑さんの方は太田さんですか?」

「はい、私が確認します。それじゃあ着替えにいきましょうか。」

「はーい!」


 未亜と太田さんが着替えに出ると白子さんはそのまま仕事を始めたので、戻ってくるまでの間、明日公開分の原稿を書き進める。投稿予約まで完了したところで、ちょうど未亜と太田さんが戻ってくる。

 白子さんにあいさつをして、三人で一緒に外へ出ると太田さんは別の現場へ行くということでそのまま別れた。


「インタビュー、どんな感じになるか楽しみだね。」

「楽しみだけど、怖さもあるかな。」

「そう?」

「アイドルの交際報道だからね。ハレーションがすごそう。まあ、もう賽は投げられたからどういう反応になるのかを待つしかないけど。」

「なにがあっても二人で一緒に考えて、信頼出来る人に相談して。ちゃんと前に進んでいけるよ。私たちなら大丈夫。」

「そうだな……。うん、俺たちなら大丈夫だな。」

「出会ってからまだ二ヶ月も経っていないのにね。なんか不思議。」

「うちの親なんか、出会って一週間で付き合い始めて、付き合い始めて一ヶ月でもうお互い結婚を前提にした会話をしていたらしいから。こういうことは珍しくないのかも。」

「そか。そうなのかもね。」


 何があっても二人で前に進んでいけるから大丈夫だと思える、当たり前のようで当たり前ではない、そんな関係が俺にはとても心地よかった。

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