第016話○事務所で新居の相談

 圭司の実家でのあいさつを終えて、家に帰り、圭司のご両親と事務所からOKが出たことを両親へ報告した。明日事務所で物件を見繕ってもらうことを説明して、了承をもらう。

 一人暮らしをしたいという希望がまさか圭司との同棲ということになるなんて予想もしていなかったけど、私としては嬉しい誤算だったので、気にはならない。


 月曜日、大学の授業が3限で終わると圭司と一緒に新宿の事務所を目指す。


「どんな物件を紹介してくれるんだろうね?」

「いくつか候補を出してくれるみたい。ちなみに予算感ってどれくらい?」

「二人で割り勘するなら一人8万として、月16万円くらいまではいけそうだけどどうかな?」

「うん、それくらいなら出せると思う。あと、同棲をお願いしたのはお父さんなので、10万くらいまでなら家賃とか光熱費とかを補助してくれるって。」

「そんなに!?それは助かるね!」


 そんな話をしながら事務所に到着する。今回は3階の会議室へ直接はいるように連絡が来ていたので、そのまま入って、太田さんへRINEする。5分もせずにやってきた。


「おはようございます!」

「おはよう、美愛。雨東先生もご無沙汰です。」

「今日はよろしくお願いします。」


 太田さんによると所属事務所としては、正式に発表をしてからの入居にしたいという見解。先に同棲を始めてしまうと予定外のスクープをされたときにいろいろと問題が大きくなる、という判断で、確かにそれは私も納得。圭司も異論はないということで、インタビューの掲載後に改めて入居日を設定することになった。


 あらためて太田さんがパソコンを操作しながら物件を見せてくれる。基本的にすべて事務所が借り上げているか所有している物件だそうだ。数がたくさんあって驚く。いろいろとみていると良さそうなものがあった。


「ねえ、圭司、こことかどうかな?大学からも近いし。」

「……18階建ての18階で3LDK、負担金15万円って相場からするとかなり安いけど、すごいベストな物件だな。太田さん、ここは大丈夫ですか?」

「いま見ていただいているのは問題ない物件だけですよ。えーと、そこは専用のセキュリティキーがないと各フロアには入れないので先生の知名度も含めて考えると割といいかもしれません。」

「ねえ、圭司、ここにしようよ。」

「そうだな。」

「太田さん、ここ手配していただけますか?」

「わかったわ。ちょっとまってね。」


 太田さんがパソコンを操作して手続きをしている。なんか少しずつ決まっていって嬉しいなあ。


「社内稟議の申請したわよ。あとは事務的に処理されていくから大丈夫。」


 細かい費用の精算方法なんかを教えてもらう。基本的に毎月私に支給される報酬から天引きで家賃が差し引かれるとのこと。家賃以外の光熱費とかは自己負担。まあ、それはあたり前だよね。

 同棲に関しては過去にもあって問題はないけど、圭司の方は親で良いので保証人を出してもらう必要があるとのこと。


「それでしたら既に父から了承を得ています。」

「さすが先生ですね。あと、公表の件については、KAKUKAWAさんと話を進めていますが、おそらく詳細は白子さん担当編集者から雨東先生にも連絡があると思います。早緑にはこちらから伝えますね。」

「判りました、いろいろとありがとうございます。」

「本当はまとめてお伝えしたいんですけど、やっぱり守秘義務は外せないので。あと、同棲にあたって、雨東先生とは早緑の各種活動について、秘密保持契約を締結させていただきたいと考えております。」

「そんなことも必要なんですね。」

「はい、一緒に住んでいるとどうしても早緑の活動について『知ってしまう』ことが増えます。例えば、CDのジャケット撮影でどこかへ出かけるなんていうのは本来は機密事項ですが、一緒に住んでいてどこへなんのために出かけるか知らないなんていろいろと不都合が起きます。早緑が先生に安心して話が出来るように秘密保持契約でそこを問題のない状況にしておきたいのです。」


 太田さん、そんなことまで考えてくれているんだ、すごいなあ。


「判りました。そういえば名刺をお渡ししていなかったのでお渡ししておきます。保証人の書類と契約書面は一度そこに書いてあるメールへいただけますか?両親にも確認してもらって、改めて印刷したものをお送りいただければ、署名して返送します。」

「それでしたら弊社は電子契約へ移行しているので、全部オンラインで手続き可能です。最近、バーチャルライバーなんかも所属タレントに増えていて、電子契約の方が楽なんです。諸々用意したらメールでご連絡します。」

「あと、念のため、RINEも交換しておいた方が良いですよね。」

「それは助かります。ありがとうございます。」


 その後も細かい説明や確認があって、全部終わったのは17時を過ぎていた。


「あっ、そろそろレッスンいかなきゃ!太田さん、今日はありがとうございます。」

「いえいえ、私よりも先生が大変だったと思うわ。」

「二人で一緒に前に進むためですから、これくらいは。じゃあ、未亜、また明日な。」

「うん、帰ったらRINEするね。」


 さて、レッスン頑張らないと!

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