第014話○彼のご両親へあいさつします!

「ふう、緊張するな……。」

「大丈夫だよ、普通の親だから。」

「そうはいっても……。」


 お父さんが圭司に同棲のお願いをするという衝撃的な一日の翌日。今度は圭司の自宅へあいさつに向かっている。


「ここで降りるよ。」

「無事に着いたね。……上にあるあれはなに?」

「ん?ああ、あれは東名高速。その下に国道246号にーよんろくが走っている。」

「へえ、なんか面白い!」


 そんな会話をしながらバスに乗って圭司の自宅まで行く。

 広い道路に緑がいっぱいのいかにもニュータウンという感じの一角に11階建ての大きなマンションが建っていた。


「ここの一階なんだ。」

「高級そうな感じ。」

「いや、普通のマンションだよ。」


 圭司は自分の鍵でドアを開けた。


「ただいま。未亜を連れてきたよ。」

「圭司、おかえりなさい。未亜さん、初めまして。圭司の母、理恵りえです。」

「はじめまして!西脇未亜です。よろしくおねがいします!」

「さあ、リビングでお父さんが待っているから。そんなにかしこまらずにね。」

「はい、ありがとうございます。」

「母さん、百合ゆりは?」

「今日は部活よ。そろそろ大会が近いから。でも12時くらいに吉祥寺の駅だってRINE来てたからもうすぐ帰ってくるんじゃないかしら。」

「圭司、妹さんがいたんだね。」

「うん、高3の妹がいる。」

「そか、うちと同じだ!」


 リビングに入って、室内を見渡す……えっ!あれは!?


「父さん、未亜を連れてきたよ。」

「おお、いらっしゃい。初めまして、未亜さん。圭司の父親で、昌司しょうじといいます。」

「初めまして、西脇未亜と申します。よろしくお願いします。」


 圭司が気がついていないみたいなので、私は圭司を突っつく。


「……未亜?」

「……あれ。」


 私はリビングの一角を指さす。


「えっ?……ええっ!?」

「ん?圭司どうした?」

「……あのポスター、なんでここにあるの?」

「ああ、あれは百合が好きなアイドルのポスターだな。どうしても貼りたいっていうから貼ってあるんだけど、あれがどうした?」

「百合も早緑美愛さみあんのファンだったのか!俺も好きで応援していたから。」

「圭司も好きなのか。さすが兄妹だな。まあまあ、立ち話も何だから座りなさい。」

「いまお茶入れるわね。」


 衝撃覚めやらぬまま、私は圭司とソファーに腰掛ける。これ、正直に名乗った方がいいのかな?


「ただいまー!お兄ちゃん、帰ってきてるー?」

「百合お帰り。リビングにいるぞ。」


 駆け足の音がだんだん大きくなってリビングまでやってくる。


「あっ、お兄ちゃん、久しぶり!隣の人が彼女さん?」

「は、初めまして、西脇未亜です。」

「初めまして未亜さん!高倉百合です!よろしくおねがいします!着替えてくるね!」


 妹の百合さんは、ずいぶんと人懐こそう。


「百合は着替えたらそっちに座るといい。未亜さん、騒がしくてすまないね。」

「いえ、うちも弟がいるので。」

「はい、お茶が入りましたよ。お昼は食べてきたって聞いているから軽めのお茶請けをどうぞ。」

「母さん、ありがとう。」

「さっきの話だけど、父さんは早緑美愛のこと、どう思っている?」

「アイドルのことは詳しくないが、この前、ミュージックエアポートに出ているのを百合とみたけど、歌がうまくてトークも面白いな。」

「アイドルって歌はいまいちなのかと思っていたけれど、歌がうまくてびっくりしちゃった。」

「歌唱力が評価されて事務所のオーディションに受かったそうだからそこは折り紙付きなんだよ。」


 一応、好印象なのかな?そして、圭司のその情報、ファンクラブ会報の創刊号にしか書いてない情報だからね!?


「着替えてきました!あらためて未亜さん、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくお願いします。百合さん。」

「私の方が年下なんだからそんな堅くならないで!ちゃん付けで呼んでくれたら嬉しいです!」

「じゃあ、百合ちゃん!」

「わーい、嬉しいなあ!よかったらRINE交換してほしいです!」

「うん、いいよ!」

「やった!未亜さん、よろしくね!お兄ちゃん、ものすごいかわいい人を捉まえたねえ!」

「……か、かわいい!?」

「こら、百合、未亜さんが困っているじゃないか。」


 しばらく雑談をしていると圭司が百合ちゃんに私も聞きたかったことを切り込む。


「百合、さみあんのこと好きなのか?」

「うん、大好き!アルバムも全部持っているよ。」

「いつから応援しているんだ?」

「同級生がさみあんの大ファンで、冬休みに家で聴いてっていわれて、CD貸してもらって、すごく良くてって感じだからまだ5ヶ月くらいかな。」

「だから知らなかったのか。俺はデビュー当時から応援していたからもっと早く薦めれば良かったな。」

「お兄ちゃんもさみあんのこと好きだったんだね!……ところで彼女さんの前でほかの女の子のこと、好きだなんて話しても大丈夫なの?」


 百合ちゃんがニヤニヤしながら圭司のことを見ている。ご両親はその光景を微笑ましく眺めている感じだ。


「あー、そのな、ほかの女の子、じゃ、ないからな。」

「……えっ、どういうこと?」


 圭司が私の目を見る。私は軽く頷いて、私から切り出す。


「百合ちゃん、早緑美愛って実は私なの。」

「……ええっ!?」

「今日は何も準備していないから証拠を見せられないんだけど……。」

「そうだな、未亜、あのポスターにサインとかできるか?」

「あっ、それいいね。サインくらいなら問題ないし。」

「えっ、ちょっとまって!?年明けにCDを買ったときにもらった複製サインを持ってくる!」


 百合ちゃんが部屋に戻ると同時に圭司は立ち上がってペン立てから取り出したサインペンを私に渡す。私は受け取ったサインペンを使って、ポスターにサインを書いた。戻ってきた百合ちゃんは3rdアルバムの店舗特典として一部のCDショップでプレゼントされていた複製サイン色紙と私がいま書いたサインを見比べている。


「……本物だ。」

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