第013話●予想出来ないってこんな展開……

 自著を渡しただけなのになんだ、いったいなにが起きているんだ?


「なんだ、未亜はちゃんと説明していなかったのか?」

「あー、忘れてた!」

「作家先生と付き合っているのにダメじゃないか……。高倉くん、いや、雨東先生。お目にかかれて大変光栄です。あらためまして、私は伊予國屋書店いよくにやしょてん取締役の西脇陽介です。先日は新宿本店のサイン会へご足労いただきありがとうございました。」

「……ええっ!伊予國屋書店の!?先日はこちらこそ、大変お世話になりました!しかも平台陳列でポップまで付けていただいて!……未亜、これは一体どういうこと!?」

「ごめんね、いったつもりになってた!」

「ちょっとさ、この前からいろいろと衝撃が大きすぎて、身が持たないよ!?」


 忘れていたじゃないって!まさか未亜の父親が、日本最大の書店チェーン、しかもこの前サイン会やったばかりの書店の取締役だなんて、そんなこと聞いていないよ!


「そうか雨東先生が。未亜の恋人が雨東先生なら間違いないですね。」

「あなた、高倉さんってそんなにすごいの?」

「ああ。毎年、全国の書店が協力して、前年に発売された書籍の中からこれぞという10傑をノミネートして、その中から一番良かった作品を選ぶ書店大賞というイベントをやっているんだが、雨東先生の作品はその10傑にノミネートされたんだ。その上、この前の連休にうちの新宿本店でサイン会をしてくださって、店長によるととても礼儀正しくて進行もスムーズだったので楽でしたって報告ももらっている。」


 彼女のお父さんからまさかのべた褒め!これはどうしたらいいの!


「ふふーん、私が選んだ人に間違いはなかった、でしょ?」

「そうだな、間違いはないよ。雨東先生、どうか未亜のことをよろしくお願いします。」

「ここまで褒められると恐縮してしまうのですが、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 これは、未亜の一人暮らしをお願いするいいチャンスかもしれない。


「あの、お願いついでで一つご相談があるのですがよろしいでしょうか。」

「なんでしょう?私に出来ることでしたら。」

「未亜さんの一人暮らしを認めていただけませんか?」

「えっ、それはまた……。」

「未亜さんはこれからアイドルとしてかなり忙しくなると思います。レッスンだけでなく大学の勉強もあって、帰りが遅くなってしまうことも多くなるでしょう。都心からここ自宅まで毎日帰るのは大変で、おそらくどこかで無理が出ると思います。」

「確かに最近ミュージックエアポートにも出演しましたしね……。」

「未亜さんの所属されている事務所ならセキュリティのしっかりとした物件をご存じでしょうから安全という面でも万全ではないかと思います。」

「しかし、もし体調を崩して家で寝込んでしまって連絡が取れないなんていうことを考えると一人暮らしはさせたくない、というのが親の心情でして……。」


 陽介さんは腕を組んで考え込み、沈黙が部屋を支配している。体感としては1時間くらいに感じたが、時計をチラ見すると10分しか経過していなかった。これは早まったかと思ったそのとき、陽介さんが口を開いた。


「……何かあったときに誰も連絡が取れなくなるのはとてもまずい。事務所で見に行ってくれるとしてもすぐの対応が出来るわけでもないだろうし。やはりそこは譲れないところで、だからこそは認めたくないのです。」


 ん?なんか含んだ言い方するな。


「そこでどうでしょう、雨東先生。よろしければ未亜と同居して下さいませんか?」


 陽介さん?いまなんと?


「……えっ!?お父さん!?圭司と同棲しろってこと?!」

「まあ、同棲そうともいうな。一人は心配だが、若いのにちゃんと社会的な実績もあって、この短時間でも判るくらいしっかりとした考えと常識を持っている雨東先生なら安心して未亜を任せられる。ただ、ちゃんと結婚するまでは妊娠だけは気をつけてくれ。それ以外は未亜に任せる。」

「ちょっと、妊娠って!?お父さんいきなりなにいってるの!?まだそんな関係じゃないからね!?」

「それならそれでいい。もう大学生なんだ。その点に関しては親は何も言えないさ。」

「あらあら、未亜ちゃん、良かったわね。」

「お母さん!?ずいぶん冷静だね!?」


 俺は先週から一体何回驚愕すればいいんだ!?


「圭司?」

「……すまん、この前から衝撃的なことが起こりすぎていて、だいぶ意識が飛んでいた。陽介さん、その件はちょっと保留にさせていただいても良いでしょうか。私も両親に未亜さんを紹介して、未亜さんの事務所にも相談をして、とその辺の段取りをちゃんとしてからあらためて決めたいと思います。」

「さすが雨東先生。感情に流されず判断されるのはやはり信頼できます。もちろんお返事は急ぎませんので、ご安心下さい。」

「両親には元々明日、未亜さんを紹介する予定で連絡をしていたところです。早ければ明日両親の承諾が取れると思います。」

「私どもはそれで問題ありません。では、決定されたら改めてご連絡ください。もちろんお電話でかまいませんし、未亜からの言づてでも問題ありません。」


 まさか、彼女の父親が伊予國屋書店の取締役で、その上彼女の父親から娘と同棲して欲しいって頼まれるなんて、予想出来ないってこんな展開……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る