第012話○彼を親に紹介します!

 家に帰ると早速お母さんに相談をする。


「お母さん、来週の土曜に彼を連れてきたいんだけどいいかな?」

「あら?もう親に紹介できるくらいの仲なの?」

「うん、アイドル活動のことも伝えたよ。」

「そうなのね。じゃあ、お父さんに聞いてみましょ。」

「はーい。お父さんは?」

「ミュージックエアポートを見たいからもうすぐ帰ってくるってさっきメールが来てたわよ。」

「じゃあ、居間で待ってるね。」


 テレビを付けるとちょうどこの前収録した音楽番組が始まったところだった。私は二番目に出てくるはず。


「ミュージックエアポートに出られるなんてなんかすごいところまで来ちゃったなあ。」

「ただいま。」

「あっ、お父さんお帰りなさい。」

「未亜、ただいま。ちょうど出るところかな?」

「うん、このあとだね。」

「未亜の晴れ姿を見たら着替えてくるかな。」


 テレビで歌う私の姿をお父さんは満足そうに見終えるとお風呂へと向かった。テレビに出ている姿を見られるのはなかなか慣れない。

 お風呂から出てきたお父さんも含めて三人で食事をする。高2の弟は大学受験に向けて予備校へ行っているので帰りが遅い。なんでも国立を狙っているとか。


「お父さん、高倉さんを紹介したいんだけど、今度の土曜日に連れてきてもいいかな?」

「もちろん。ちゃんとご挨拶もしたかったからちょうどいいな。」

「あなた、変に圧力掛けたらダメですよ?」

「信用ないなあ、そんなことはしないよ。父親としては娘が初めて付き合った男がどんな人か、見定めたいだけだよ。」

「はいはい、未亜ちゃん、良かったわね。」

「じゃあ、後で連絡しておくね。」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 約束の土曜日になった。圭司とは戸塚の駅で待ち合わせだ。


「お待たせ。」

「いまきたところ!って、やっぱりこのやりとり、なんか恋人って感じがするね!」

「たしかにそうだけど、今日は電車が遅れちゃったから……。」

「あっ、遅れてたの?本当に待ってないから大丈夫!ほら、時間通りだよ。お父さんとお母さんはショッピングモールのところで待っているから一緒に来て。」


 圭司を両親のところまで誘導する。


「初めまして、未亜さんとお付き合いさせていただいている高倉圭司と申します。」

「ご丁寧にどうも。未亜の父で陽介といいます。」

「母親の麻衣です。未亜がいつもお世話になっています。」

「高倉くん、苦手な食べものとかはあるかな?」

「特にはありません。何でも食べられます。」

「それじゃあ、このビルの中にある中国料理の店に行こうか。」

「やった!あそこ美味しいよね!」

「高倉さん、すみませんね。未亜はいつもこんな調子でしょう?」

「いえいえ、そんなところも好きなので。」

「あらあら、いきなりのろけられちゃったわね。」


 圭司と一緒によく使う地元のショッピングモールを歩くのは不思議な感じがする。何かお祝い事があると食べに来る中国料理店の個室に案内された。


「あらためて高倉圭司と申します。こちらつまらないものですが、今日は来られなかった弟様も一緒にぜひ召し上がって下さい。」

「おや、まだ若いのにすごいね。ありがたくいただくよ。」

「ご丁寧にありがとうございます。まだ18歳よね?」

「はい、誕生日は9月なので18歳です。」

「気が利く自慢の彼氏だからね!」


 食事を食べながら穏やかに会話が進んでいく。デザートまで食べ終わって、お店から出るとお父さんが突然こんなことをいいだした。


「高倉くんはまだ時間あるかい?」

「はい、今日は一日空けてあります。」

「それじゃあ、うちでもう少し話をしないか?」

「えっいいんですか?ありがとうございます。私ももう少しお話ししたかったので光栄です。」

「未亜もそれでいいかな?」

「うん、私はいいよ。」


 後部座席に二人で座って、自宅を目指す。途中、道が混んでいたけど、それ以外は問題なく、自宅へたどり着く。


「高倉くん、わざわざ自宅まで来てもらってすまないね。」

「いえ、未亜さんの育った場所を見せていただけて嬉しいです。」

「そこに掛けてくつろいで下さいね。未亜もそこに座って。」

「はーい。」


 ソファに座った圭司が鞄を確認しはじめた。鞄から取り出したのは……雨東先生の単行本だ!


「……実は未亜さんのご両親にもう一つお渡ししたいものがあります。」

「おや、なにかな?」

「これなんですけど……。」

「本?」

「はい、それを書いているのは私なんです。私もまだ若輩者で、どんなことをしているのか、なかなかお目にかけられないので、とりあえずそちらの本を読んでいただければ、と思いまして。」

「えっ、これを君が書いているのかい?」

「はい、おそらくご存じないとは思いますが……。」

「いや、そんなことはないだろう。これは今年の書店大賞ノミネート作品じゃないか。書籍に携わっている人間なら絶対に知っている。」

「えっと、すみません、状況がよくわからないのですが……。」


 圭司がすごい困惑している!

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