第四章 精霊王 編

第121話 冬来たる


 僕とライラさんが結婚した翌年。

 世界は猛烈な寒波に襲われた。

 一年中大雪が降り続き……。

 どこもかしこも冬となってしまった。

 この雪はいつ溶けるのだろうか。


 だが世界を襲った異変は、それだけではなかった。

 ありとあらゆるところで原因不明の病気が大流行した。

 そう、僕の妹ヒナギクや、ガイディーンさんを襲ったあの病だ。

 手の届く範囲は僕に診れるけど、世界規模の大流行となるとそうもいかない。

 たくさんの人が病気で死んでいった。

 こんな現実は、僕にはもう耐えられない。


「ヒナタくん……どうしたんですか、こんなに朝早くからホットポーションをつくり込んで」

「あ、ライラさん。おはようございます。僕はちょっと……出かけてきます」


 僕はカバンにホットポーションを詰め込みながら言った。

 ホットポーションはもはやこの年中冬と化した世界では必須のものだった。

 数か月前に僕が作って、それから世界中で普及している飲み物だ。


「そうですか、気をつけてくださいね。外は危険でいっぱいですから……」

「わかっています。すぐに戻りますから」


 ライラさんの頬に口づけをして、僕は外へ出た。

 外は危険でいっぱいだ。

 冬となって人間があまり出歩かないようになると、寒さに強い危険なモンスターたちが活発になり始めた。

 基本的に一人での外出は避けた方がいい。





 家を出た僕が向かったのは、とある人物の家。

 勇者パーティーの賢者、ケルティさんのお家だ。

 ケルティさん含め、勇者パーティーのみなさんは冒険者業をいったんストップしていた。

 この大雪では、誰も冒険者など必要としていない。

 必要なのは物資と暖だけ。


 たまに危険なモンスターが街の近くに現れた際には活動をしているみたいだけど。

 基本的には今、ケルティさんは家にいた。

 で、なぜ僕がケルティさんをたずねたのか……。

 僕は現状をなんとかしたかった。

 そう、この世界を覆う悪夢を終わらせる――。


「あ、ヒナタさん……お久しぶりです」

「お久しぶりですケルティさん」


 僕は中に入って、さっと扉を閉める。

 すぐに扉を閉めないと、部屋が冷えてしまう。

 部屋の中は暖炉で温かく、快適な温度に保たれていた。


「それで……ご用件は?」

「ケルティさん……僕は、精霊王に会いに行きます。力を貸してください」

「…………!?」


 ケルティさんは、この世界で唯一回復魔法を行使できる人物だ。

 だからこそ、賢者と呼ばれている。

 回復魔法……それは医術魔法とは違って、現代では失われた技術。

 精霊の声を聴き、精霊の力を借りてしか行使できない。


「で、でも……それは危険すぎます」

「わかっています。でも……いかなきゃならないんです」

「…………いいでしょう。私にできることなら……なんでも」


 この世界を襲う病をどうにかするには、もう回復魔法に頼るしか道はなかった。

 僕は失われた回復魔法を、この世界に取り戻す。

 そのためには、精霊を統べる精霊王に会い、もう一度人類に力を貸してくれと頼むしかない。


「お聞きしてもいいですか。なぜ、ケルティさんだけは……回復魔法を使えるんですか? どうやって、精霊に力を貸してもらえることに?」

「そうですね……話せば長くなるのですが……。私は精霊と、契約を交わしました。とても重い条件です」

「…………」

「ヒナタさん、精霊王は……きっとかなりの対価を要求すると思います。覚悟はできていますか?」


「もちろんです」


 僕はどんなことでもするつもりだ。

 ヒナギクを苦しめたこの病気を、根本的に治療する。

 この世界から、苦しんでいる人を一人残らず救い出す。

 僕はそのために、なんだって差し出そう。


「精霊王は人間を信頼していません……。ですが、ヒナタさんならあるいは……」

「ケルティさん、いっしょにいってくれますか?」

「はい……もちろんです」


 こうして、僕はケルティさんと共に、精霊王をたずねて旅立つことになった。

 ライラさんにそのことを話すと、心配していたが、僕の思いに同意してくれた。

 あとは、同行するメンバーを集めるだけだ。


「ヒナタくん! ぼくを置いていくつもりじゃないだろうね……?」

「勇者さん!」


「もちろん、私も同行させてもらうわ!」

「リシェルさん!」


 結局、勇者パーティーの3人と、僕を含めた4人での旅になった。

 僕たちは物資を集めて、出来る限りの準備をした。

 長い、険しい旅になるだろう……。

 だけど、僕はこの世界をヒールするために、行かねばならない。


 冬の時代を終わらせる。

 この世界を照らし、もとの温かい日向に戻すんだ――!



――――――――――――――――――――――

【あとがき】《新連載》を始めました!


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