第74話 見捨てられた者と祝福される者【side:ガイアック】


俺は威風堂々と、後ろを振り返らずにダンジョンを奥へ奥へと進んでいく……。


首狩りのトモと、酒樽ゲインは臆病なようだな。


冒険者のくせに情けない奴らだ。


俺が先導してやらないとな!


――。


どうにもさっきから様子が変だ。


後ろを歩いているはずの、2人の気配を感じない。


「おい、首狩りのトモ、酒樽ゲイン……?」


俺は不安を感じながらも、ようやく後ろを振り返る。


――。


そこには誰もいなかった……。


「っち……迷子になりやがったな……? どこまでも足を引っ張るやつらだ」





【side:ヒナタ】


目が覚めたとき、あれが夢だったらどうしようかと思った――。


でも夢じゃない。よかった。ヒナギクは元気なままだった!


「兄さん、大好きなのー!」


「はいはい、もう何度も聞いたよ。僕もヒナギクが大好きだよ!」


僕は頭を撫でる。さっきからずっとこの調子だ。離れてくれない。まあ嬉しいからいいんだけどね。


ヒナギクは以前のように、元気な甘えんぼさんに戻ったようだ。


さすがはエリクサーだ。どんな病気でも治せるという伝説は本当だったようだね。


ここまで長かった……だから本当に感慨深いよ。


でも……世界にはまだまだ病気の人がたくさんいる……。それこそ、ヒナギクと同じ症状の人たちも……。


根本的な解決になったわけじゃない。ヒナギクは元気になったけど、その原因はわからないんだ。


どんな病気なのかも、治し方も、原因も……。そんな人が、まだまだいる。


ヒナギクにも一度、僕の鑑定スキルを使ったことがあるけれど、重要な部分はなぜかわからなかった……。


エリクサーという万能の解決法はあるけれど、あれはもう二度と手に入らないかもしれない。


もともと存在すら怪しい幻の薬だったし、僕の活性スキルがなければ無理だった。


活性スキルは負担が大きいし、そう何度も試せるものじゃない。


ヒナギクの病気が再発しないとも限らないし……。根本的な解決策は今後、探っていく必要があるだろうね……。


まだヒナギクが完全に安全なわけではない。戦争のことも気になるし、僕がこれからも命がけで守らなくちゃ!


そんな決意を頭の中で考えながら、ヒナギクを撫でていると――。


「ヒナタくん、ヒナギクちゃん、そろそろいいですか?」


「ライラさん!」


なんだか久しぶりに会った気がする。そんなはずはないんだけど。


「兄妹水入らずのところを邪魔しては悪いからと、さっきまでみなさんで遠慮していましたのよ?」


「ヒナドリちゃん! ヒナドリちゃんも来てくれたんだね!」


ヒナドリちゃんが世界樹ユグドラシルにいるとなんだか妙な感じだなぁ……。


「先輩、みんなでご飯を食べるっス! 今日はギルドをあげてのお祝いっスよ!」


「ええ!? ほんとに!? いいのかな……」


妹が元気になったというのは、僕の個人的なことなのに、それをギルドのみんなで祝ってくれるなんて……。嬉しいね。やっぱり、世界樹ユグドラシルは世界一温かいギルドだ。


「ヒナタくん、ヒナギクちゃんやヒナドリちゃんをみんなに紹介してくださいね! 私にとってもお二人は義妹いもうとなんですから!」


「ライラさん……ありがとうございます!」


ライラさん、そんなふうに思ってくれるなんて嬉しいね。世界樹ユグドラシルは家族みたいにあったかいギルドだもんね!


「さあ、食堂にいきますよ! みんな、準備を終えて待っています!」


「わぁーい! たっくさん食べるなのー!」


「あ、ちょっと、ヒナギク。まだ走っちゃだめだよ! ころんじゃうよ?」


まったく、そういえば以前のヒナギクはこんなにも元気いっぱいだったっけ……。


ヒナギクの口から沢山食べたいなんて聞ける日が来るなんてね……。


僕たちはヒナギクを追って、みんなでぞろぞろと食堂へと向かった。





「ヒナギクちゃん、回復おめでとうー!!!!」


「わー! みなさん、ありがとうなのー!」


僕たちが席に着いた瞬間、ライラさんの合図で一斉におめでとうの雨が降り注いだ。


食堂は綺麗に飾りつけされていて、食事も豪華なものがテーブルに並んでいる。


いくつかのテーブルにわかれて座っているけど、どのテーブルも大きいから、みんなたっぷり食べられるね。


食堂にはギルドの主要メンバーがみんな揃っている。嬉しいね。


ミーナさん、ザコッグさん、キラさん、ヘルダーさんにメリダさん、ノルワイアさんまで。


シスターマリアも来てくれているみたいだね。もちろん勇者さんたちも。


僕の机には主にライラさん、ヒナギク、ヒナドリちゃん、ウィンディ、クリシャ、リリーさん、たちがいっしょに座っているよ。もちろん勇者さんたちも一緒だ。


「みなさん、僕たち兄妹のために、わざわざありがとうございます!」


「何を言ってるんですか、ヒナタくんの作ったギルドなんですから!」


「え? 僕が作った……?」


ライラさんは何を言ってるんだ? ここはライラさんのギルドなのに……。


「そうですよ? ここにいるみなさんは、ヒナタくんのことが大好きで、集まったみんななんです! ヒナタくんのやったことが、これだけ大勢の人々を感動させ、集めるに至ったんですよ?」


「ライラさん……みんな……」


「みんなヒナタくんにはたくさん助けられました。だからこそ、困っているヒナタくんになにもしてあげれなかったのが、もどかしかったんです。でもヒナタくんはそれでも自分の力で、妹さんまで救ってしまいました。だからヒナタくんは、ほんとうにすごいです!」


「そんな……みなさんには十分、僕は助けられています」


「みんな、ヒナギクちゃんが元気になることを望んでいました。そして、ヒナタくんが報われることを……。私たちにはお祝いすることくらいしかできませんが……、今日は楽しみましょう!」


うう……。みんな、そんな風に思ってくれてたなんて……。


みんなが僕に注目しているけど、僕は涙で見れないよ……。


こんなに大勢の人が、ヒナギクのことを思って……僕のことまで……。幸せだね。


「みなさん、本当にありがとう! そしてこれからも、よろしくお願いします!」



――カチーン!



僕のお礼の言葉とともに、みんなは一斉に乾杯をして、パーティが始まった。





「も、もう食べられない……」


パーティは夜が更けるまで続いた。


沢山の人から個別にお祝いの言葉を頂いたし、本当にうれしかった。


あんまり褒められることには慣れていない僕だけど、今日ばかりは素直に、手放しで喜んでもいいのかなって思えた……!


ヒナギクとヒナドリちゃんも、みんなと仲良くなれたみたいでよかったしね。


2人とも、みんなに妹扱いされて、とってもかわいがられていたなぁ……。


一日で沢山お姉さんができたと、ヒナギクも喜んでいたしね。


ヒナギクはまだ疲れちゃうといけないから、ヒナドリちゃんと先に家に帰ってもらったよ。


明日からも元気なヒナギクと一緒にいれるなんて、僕は幸せだなぁ。今でも信じられない。


僕が満腹感と充実感に浸っていると……。


突如パーティに闖入者ちんにゅうしゃが現れた――。



「大変だ! 助けてくれ! ヒナタさん!」


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