第43話 最後通告【side:ガイアック】


「なんでまた俺が協会に呼び出されるんだ?」


 俺は届いた書類を前に、あっけにとられる。


 そういえば前にもこんなことがあったな。


「さあ、こないだの爆発テロの件についてではないですか?」


 キラが俺に考察を投げる。


 鋭い目の付け所だ。


 俺の部下は順調に成長しているようだな。


「そうか、そういうことか。俺たちを表彰しようということか! それなら納得だ」


「なんといっても、あの惨状をくぐりぬけたんですからね!」


「そうだな! 思ったよりも患者を救えたからな。我ながら誇らしいぜ」


「さすがはガイアックギルド長ですよ!」


 以前は協会に怒られたこともあったが、今回は大丈夫だろう。


 俺はなにも悪いことはしてないのだし。


「さあて、それじゃあ英雄の凱旋といくか!」


 俺は意気揚々とギルドを飛び出した。





「会長がお待ちだ」


 医術協会本部にて、俺は医術協会会長――ドレイン・ヴァン・コホックと面会をする。


「ガイアック・シルバくん。今日はなんで呼ばれたか、わかっているな?」


 医術協会長のおっさんが、俺にそんなことを言う。


 偉そうに髭をたくわえた、白髪の老人。


 前にも会ったことがあるが……。


 こいつは俺をしかりつけた!


 許せない相手だ。


 俺はこいつに舐められている。


 だがまあ、今日は大人しく表彰されてやろう……!


「ええ、もちろんです。私の働きぶりを見て、表彰をしたいということでしょう? それでしたらもちろん、喜んでお受けします!」


 俺がそう言うと、協会長はおそろしく深いため息をついた。


「……?」


 俺はわけがわからずに首をかしげる。


「まったく、呆れたヤツだな君は……。超ド級のバカだよ」


「はい? 今なんと?」


「報告書を読んだが……。君のギルドが救った人数を言ってみろ」


「……? 250人中15人ですが……?」


「まったく、君はすごいな……」


「……? そのすごい・・・っていうのは、多すぎるって意味だよな?」


 俺はなおもわけがわからない。


 もったいつけやがって。


 こういう老人はキライだ。


「馬鹿者! 少なすぎるという意味だ!」


「はい!?」


「他のギルドがどれだけ患者を救ったのかわかってるのか?」


「さあ……それは……。でもどうせ5人とかがせいぜいでしょう?」


 俺でさえ15人しか救えなかったんだ……。


 他の奴らになにができる?


「ザコッグの医術ギルドは80人も救ったぞ……?」


「なに!? あんな奴にそんなことが……!?」


「なんでも、いい商業ギルドと巡り会って、質のいいポーションに恵まれたそうだ」


「そんな……!? 商業ギルドだと!?」


「そうそう、商業ギルドといえば……。世界樹ユグドラシルというギルドを知っているか?」


世界樹ユグドラシル……? そういえば聞いたことが……」


 世界樹ユグドラシル……思い出せない。


 聞き覚えはあるのだが、俺は興味のないことは忘れやすいのだ。


 医術ギルドならともかく、商業ギルドなんて覚えてるはずがない。


「今回の爆発テロで、もっとも貢献したのがその世界樹ユグドラシルギルドだ」


「は!? 商業ギルドが!?」


「そうだ。お前たちは医術ギルドのくせに、商業ギルドに負けたんだ。恥を知れ」


「……っく……! なんでそんなこと……!」


「それはお前が未熟だからだ……!」


「俺が未熟……?」


 そんなことを言われたのは初めてだ。


 だけど、商業ギルドなんかが本当に人を救えるのか?


 なにかずるをしたんじゃないのか?


「信じられません! 俺たち誇り高き医術ギルドが、商業ギルドなんかに後れを取るなんて!」


「ああ、まったくだ。私も信じたくないよ。これは協会としても受け入れがたい事実だ」


「詳しく教えてください!」


「なんでも、例の商業ギルドには、とっても優秀なポーション師がいるそうだ」


「ポーション師……!?」


 またポーション師か。


 なんで俺の前にはいつもポーション師なんてゴミが立ちふさがるんだ?


 なにかの呪いか?


 俺がポーション師に何をしたって言うんだ?


「そのポーション師は君も知っている人物だと思うがね……」



「ま、まさか……!」



「そう、その通りだ……」



 世界樹ユグドラシル――どおりで聞いたことがあったはずだ。



 そうか、あいつ・・・のギルドだったのか……!


 くそう、忌々しい。




 ――ヒナタ・ラリアークめ!!!!




「君は惜しいことをしたな……。あんな腕のいいポーション師をなんでクビになんかしたんだ?」


「う、それは……」


「まあ今更後悔しても遅いがな」


「あれはアイツが悪いんです。アイツが実力を隠して、俺の足を引っ張っていたんだ……!」


「さあ、足を引っ張っていたのはどっちかな……?」


「っく……」


 後悔してももう遅い……か……。


 たしかに、俺の判断は間違っていたかもしれない。


 だけど、他にどうしようもなかったじゃないか……!


「ガイアックくん。最後に、もう一度だけチャンスを与えよう」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ、ただし……ギルド再開にあたって、こちらで用意した監視役・・・をつけさせてもらうよ? それで結果が出せなければ……今度こそ君のギルドは取り潰しだ」


「は、はい……わかりました……。頑張ります!」


「よろしい。君の父は優秀だったからな。期待しているぞ。きっと君にもできるはずだ」


「ありがとうございます」


 俺はとりあえずその場はにこにこしてごまかした。


 ふん、監視役だと……!?


 俺も舐められたものだな。


 あんなジジイ、とっととくたばればいいのだ。


 そしていずれはおれが協会の会長に上り詰めてやる!


 監視役なんかの好きにはさせない!


 まあせいぜいいたぶって、ギルドに居られないようにしてやるさ……。





 ガイアックは、ちっとも反省をしないのであった……。


 そんな彼が今後どうなっていくのか。


 それはもちろん――――。

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