第41話 伝説級の回復魔法


 僕たちは出来る限りのことをして、患者さんを救った。


 だけどそろそろ追いつかなくなってきたぞ……。


 正直、ポーションと簡単な医療魔法マジックオペだけじゃどうしようもないような重症患者もいる。


 回復魔法チートでもあればいいんだけど……。


 回復魔法なんてのは、もはやおとぎ話のようなものだ。


 そんなものがあれば、魔法医師なんて職業はいらなくなる。


 そんな回復魔法チートを使えるとしたら、大賢者級マスタークラスの冒険者だけ……。


「お困りのようね?」


 そう言って現場にやってきたのは――。


「あ、あなたは?」


「私は勇者パーティの賢者――ケルティよ」


 ケルティ、そう名乗った人物は、薄い緑色の髪に、白いローブを身に着けた女性。


 勇者パーティ――ユーリシアさんの仲間ということだね。


 勇者パーティの賢者といえば、国家クラスの大賢者であると有名だ。


 そりゃあそうだ、あの勇者さんと一緒にいるんだもんね。


 ということは――。


「まさかケルティさん、あなたは……」


「そう、私の回復魔法が必要でしょ?」


「!?」


 こんなに頼もしいことがあるだろうか。


 なかばあきらめかけていた僕たちの顔に、活気が戻る。


「使えるんですか!?」


「ええ、私だけに与えられた、加護の力。ここで使わずしてなにが勇者パーティですか!」


 さっすが、ユーリシアさんの仲間だ。


 きっとユーリシアさんから聞いて、駆けつけてくれたんだ。


 うれしいね。


「では、ケルティさん。頼みます」


「任せといて!」



 ――シュウウウウウウウウウ。



 ケルティさんが杖をかざすと、そこに大気からマナが集まる。


 すごい、回復魔法なんて初めて見る。


 いったいどういう仕組みだろう。


 僕はとっさに万能鑑定オールアプリ―ザルで確認する。



 ●範囲回復魔法エクストラヒール


  賢者だけに許された神話級の魔法。

  普通の攻撃魔法などと違って、マナだけでなく精霊の力を借りる必要がある。

  そのため、精霊と通じることのできる賢者にしか使用できない。



 なるほど……。


 そういうことだったのか!


 回復魔法は精霊の力を借りる。


 だから魔術医師たちには使えないのか……。



範囲回復魔法エクストラヒール!!!!」



 ケルティさんがそう叫ぶと、部屋いっぱいに薄く発光した緑のベールが降り注ぐ。



 ――ポわわわわわわん!



 そんな可愛い不思議な音と共に、患者の傷口がふさがる。


 僕の鑑定で確認しても、体力の数値が回復しているのがわかる。



「おおおお! これはなんということだ!? まさしく神の御業!」


「腕が! 俺の腕が元に戻っていく!?」


「すごい! 痛みが嘘のようにひいていく!」



 すごい、これが神話級……。


 回復魔法を使える人が、まだこの世にいたなんて!


「はぁ……はぁ……」


 魔法を使い終えたケルティさんは、なぜかぐったりとして息を切らしている。


「ケルティさん!?」


「だ、大丈夫よ……。ちょっと疲れただけだから……。実はこの魔法、一日に一回しか打てないの……」


「え、ええ!? そんな、まだ患者さんは半分ほど残っているのに……!」


「え!? ご、ゴメンナサイ……。でも、私に手伝えるのはここまでよ……」


 なんていうことだ!


 これじゃあ残りの患者さんは見殺しじゃないか……。


 せっかく全員救う道が見つかったと思ったのに……。


 そうだ!


 もうこれしかない……。



「僕が、僕がやります!」



「へ? 今なんて?」


「僕が、ケルティさんの代わりに範囲回復魔法エクストラヒールを使います」


「そんな、無理よ! これは大賢者級の者じゃないと扱いこなせないわ!」


「大丈夫です。使い方はわかっています。さっき万能鑑定オールアプリ―ザルで見ましたから」


「そんな簡単なことじゃないわ! 回復魔法ヒールは普通の魔法とはちがうのよ!? 精霊と契約を結んだ者でないと逆に焼き殺されるわ!」


「だけど、やるしかないんです!」


「……!」


 僕は右手に力を込める。



 ――シュウウウウウウウウウ。



「だ、だめですよ! そんなことしたら、ヒナタくんが死んでしまいます!」


「大丈夫ですよライラさん。僕は死にません!」


 なんの根拠もないけど。


 とにかく僕はまだここで死ぬわけにはいかない。



 大切な妹ヒナギクを残して死ぬわけにはいかないんだ!



 だけどだからといって、ここで退く理由にはならない!


 僕はポーション師。


 人を救うためにポーション師になったんだ!


 救える可能性のある人たちを救えないで、ヒナギクを救うなんてことできやしない!



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 脳の回路が焼ききれそうだ。


 そういうことか……。


 精霊に頼らずにこの魔法を使った場合、あまりの高負荷に脳が焼き切れる!


 右手も火傷を起こしそうなくらい熱い!


 だけど、これしか道はない!


 今このギルドに運ばれてきた患者さんたちの、命がこの右手にかかっている!


「……っもう! 仕方ないですね……!」


 しびれをきらしたケルティさんが僕の元へ駆け寄る。


 ケルティさんは僕を後ろから包み込むようにして覆いかぶさり、まるで一匹の生き物になったかのように同調する。


 ケルティさんの両手が、僕の手を包み込む。


 ちょっとこの体勢は恥ずかしい。


 今はそんなこと言ってる場合じゃないけど……。


「ケルティさん……!?」


「ヒナタさん……でしたっけ……。私がサポートします」


「でもケルティさん。この魔法は一日に一回しかって……」


「あくまで私はサポートです。私が精霊に働きかけ、少しでもあなたへの負荷を減らす……!」


 そんなことができるのか……!


 ケルティさんも疲れているのに、ありがたい!


「ヒナタくん。私もいっしょです」


「ライラさん!?」


 気がつけば、ライラさんまでもが僕の手に触れている。


「みんなで負荷を分散すれば、焼き切れる心配はない。でしょう?」


「こんなことはやったことがないのでわかりませんが……。やるだけやってみましょう!」


 ケルティさんがライラさんの仮説を受け入れた。



「そういうことなら……。自分も力になるっス!」


「ウィンディ……」


「ご主人……!」


「クリシャ……!」


「俺もいますよ。ヒナタさん!」


「ザコッグさん!」



 みんな僕の手に手を重ねて、力を貸してくれている。


 一人より、皆の力だ。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」




「「「「「「範囲回復魔法エクストラヒール!!!!!!」」」」」」






「まったく、ヒナタくんは無茶しますね……」


「すみませんライラさん……」


「そうですよ。助かったからいいものの……」


「ゴメンナサイ……ケルティさん」


 でも――。



「うおおおおお! 俺の腕がくっついた!」


「足が生えてきたぞ!」


「目が見える!」




 こんなに多くの患者さんを救うことができたんだ。




「まあでも、その無茶のおかげで、なんとかなりましたね……」


「あはは……」


「さっすが、私のヒナタくんですね!」


「え、ライラさん……私の?」


「え、いや! な、なんでもありません!」


「?」


 ライラさんは走ってどこかへ行ってしまった。


 どうしたんだろう……。


「やりますねぇヒナタさん」


「ケルティさん。なんのことです?」


 あ、たぶん僕の鑑定スキルのことかな?


 なぜケルティさんはそんなににやけてるのだろう?





 多くの患者を救ったヒナタ。多くの患者を死なせてしまったガイアック。


 この事件を境に、さらに物語は加速する!

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