第25話 覚醒する能力 - チカラ -


「うーん……?」


 僕は深い眠りに落ちていたようだ。


 なかなか目が開かない。


「ヒナタくん!?」


 ライラさんの声がする。


「よかった、目が覚めたみたい……」


 ここは?


 自分の周りを探ってみると――どうやら僕はベッドに寝かされているみたいだね。


 まさか……、ガイアック医院長の病院!?


 そんなわけはないか……。


「ここはザコッグさんのギルドの医務室です。ヒナタくんのピンチに駆けつけてくれたんですよ」


「そうなんですか……」


 僕の心配を察してか、ライラさんから説明が入った。


 とりあえずは安心だね……。


 ザコッグさん、ありがたいなぁ。


「そうだ! ポーションを作らなきゃ!」


 僕は勢いよく身体を起こす。


「ヒナタくん! まだ安静にしてなきゃダメですよ!」


「ライラさん……」


 たしかに、その通りかもしれない。


 ちょっと落ち着こう。


「大丈夫ですか?」


「ええ、ちょっと無理をしてしまったみたいです。でも、徹夜ポーションを飲んでたのに……どうして?」


「無理もないです。ほとんど寝ていませんでしたから……」


 心配をかけてしまったみたいだね。


 過労で倒れてしまうなんて……。


 僕はどうかしている。


「ヒナタくんが倒れていた場所に、これが落ちていました……」


 ライラさんは僕にポーションの空き瓶を手渡す。


 ほとんど飲み干されているが、ふちにまだ成分が残っている。


「これは……?」


「目撃した人によると、ヒナタくんはこれを口にした後、倒れたそうです」


 うーん?


 観察してみるけど、これは徹夜ポーションではなさそうだね。


 これはいったい?


 僕は改めて謝罪をするべく、真剣な顔を作る。


 寝ぼけた目をこする。


 そしてライラさんの方を見て――


 なんだかライラさんの頭上に数字が見える。


 どういうことなのだろう。


 ステータス?


 とりあえず僕はその数字に目をこらす。



「あれ? ライラさんのスリーサイズって、90、59、89なんですか……?」



「……!? なななななな何を言っているんです!?」


「あ、いや……えと、すみません」


「ま、まあまだ寝ぼけてるみたいなので、私は帰りますね!」


「え、ちょっと! ライラさん!?」


 行ってしまった……。


 というか、言ってしまったのは僕か……。


 なんだったんだ今のは?


 幻覚?


 それとも本当に寝ぼけているだけなのか。


 だとしたらさっきのライラさんの反応はいったい……。


 僕の身体に、なにが起こっているのだろう――。





「お兄様! お見舞いに来ましたわ!」


 夕方、ヒナドリちゃんがお見舞いに来てくれた。


「ヒナドリちゃん……。ありがとう」


「もう! お兄様に倒れられると困りますわ! 私もヒナギクも心配しますのよ?」


「ごめんね……」


「お兄様はもう十分頑張っておられるのですから……。あまり無理はなさらぬよう……」


「ヒナドリちゃん……」


 そういえば、ヒナドリちゃんの頭上にもステータスのようなものが見える。


 これは……本当になんなんだ!?


 ていうかこれ、ほんとに見ちゃいけない情報じゃ!?


 まあさすがの僕も同じ失敗はしない。


 ヒナドリちゃんには黙っておこう……。


「あまり長居するとヒナギクが心配ですので、私はこれで……」


「あ、うん。家のこと、よろしくね」


 ヒナドリちゃんは足早に帰っていった。


 僕はこの能力のことを詳しく知る必要がある……。





 自分の情報を鏡で見るなどして、いろいろ検証した結果、わかったことがある。


 この能力――僕の身体に起きた変化は、一時的なものじゃない。


 これは、僕の元々持っていたスキル――素材マテリアル鑑定アプリーザルが進化した姿……。


 エクストラスキル、万能鑑定オールアプリ―ザルなのだ。


 そのことは僕のステータスにもはっきりと書いてあった。


 今では鑑定の状態を切り替えることもできるようになって、むやみに人の情報を見てしまうこともなくなった。


 のぞき見はあんまりいい気分じゃないしね。


 なんでこんなことになったのかはわからないけど……。


 おそらくは倒れる寸前に飲んだ、あのポーションが原因ではないかと思われる。


 徹夜ポーションを飲んだつもりでいたんだけどな……。


 あの時にはもう意識がもうろうとしていたのかもしれないね。


 なにはともあれ、あのポーションを詳しく調べる必要がある。


 あんなポーションは作った記憶がないし……。


 スキルを進化させるポーションだなんて聞いたこともない。





 僕はさっきライラさんから手渡された、ポーションの空瓶を手に取る。



 ――万能鑑定オールアプリ―ザル



 すると、ポーションの空き瓶に文字が浮かび上がる。



 ■スキルアップポーション


   マンティコア・コア×1

   グリフォンの神翼×1

   上級魔力ポーション×1



「すごい!」


 これは……?


 ポーションに使われた素材だろうか?


 今までの僕の素材マテリアル鑑定アプリーザルだったら、ここまで詳細には見れなかったのに……!


 でもこんなレア素材ばっかり……!


 なんでこんな代物が、倉庫に置いてあったのだろう……?


 謎は深まるばかりだ……。


 ライラさんに訊けばなにかわかるかもしれないね。


 倉庫の管理をしている人に頼めば、在庫と照合してくれるだろうし。


 とりあえず身体が落ち着いたら、ギルドに帰って調べてみよう。





「……と、いうことなんですが……」


 ギルドに戻った僕は、さっそくライラさんに訊いてみた。


「それは不思議ですね……。そんなレア素材、うちでは扱っていないはずですが……」

「ええ!?」



「そんな素材は、普段市場にも出回っていないはずです。いったいどこから……」


「そうなんですか……」


「この素材があれば、もっと画期的な治療薬もつくれるかもしれないのに……」


「そうですねぇ。また何かわかったら、お知らせします」


「よろしくお願いします」


 ライラさんでもわからないとなると、お手上げだね。


 あのポーションを、もう一度作れれば……。


 なにかいい方法はないだろうか……?


 ちなみに、僕のスキル3つの中で、進化していたのは鑑定のスキルだけだった。


 どうやらスキルアップポーションには、一つのスキルを進化させる効果しかないみたいだね。


 あのときたまたま、鑑定を使っていた途中だったからなのかな?


 とにかく僕は、この一件から、レア素材を探し始めることになる。


 レア素材を使えば、妹の病気を治すことができるかもしれない。


 スキル進化なんていう非常識な効果を持ったポーションがあるんだ……。


 妹の病気に効くポーションだって、きっとどこかにあるはずだ!





【side:ライラ】


 ヒナタくんの言っていた素材……。


 【マンティコア・コア】と、【グリフォンの神翼】……。


 そんな伝説級のレア素材が、このギルドの倉庫に眠っていた、なんてことがあるはずがありません。


 そんなものがあったとして、ギルド長のこの私が知らないなんてこと、あるはずがないですよね……。



「だとしたらやっぱり……」



 ヒナタくんがと考えるしかない――。


「聞いたことがあります。裏レシピ――そう呼ばれるものが、存在するということを……」


 私はヒナタくんが去ったあと、ギルド長のデスクに腰かけ、一人つぶやく。


 レアなアイテムの制作には、レシピで決められた素材同士を組み合わせる必要があります。


 これは当然です。


 どんなアイテムでもそう。


 普通のポーションだって、レシピ通りでないと作れません。


 ですがごく稀に、違ったレシピでも制作できることがあるとかないとか……。


 それにはさまざまな条件があるようですが……。


 ありふれた素材から、たまたまレアアイテムを生成してしまうことが、ごくまれにあるらしいですね。



「ヒナタくんほどの才能であれば、もしかしたら……」



 そう期待してしまうのも、無理はないでしょう。


 だって、彼はあの日、私の前に現れた――特別な人。


 いつだって私と私のギルドを正しき方向に導いてくれました。


 そして、本人は謙遜して認めませんが、素晴らしい才能の持ち主でもあります。


 ヒナタくんが寝ぼけまなこの中、偶然にも裏レシピを発見してしまったのだとしたら……。



「まさか、ね……」





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