第7話 ギルド長は間違えた【side:ガイアック】
「ギルド長! 発注していた素材が届きました!」
「お、そうか。これでようやくポーションを混ぜれるな」
朝早く、助手のキラが俺に報告する。
まったく、ヒナタのせいでとんだ無駄遣いをしてしまったぜ。
ポーション師ってのは呆れるほどクズだからな。
ま、俺の的確な指示のおかげで、それもなんとかなりそうだ!
俺は届いた素材を確認するために、箱を開けた。
ん……?
「おいなんだこれ!?」
「どうしたんですか!?」
俺は素材を手に取って、まじまじと見つめる。
いくら見ても、やっぱり間違いない……。
俺の手にあるのは、カピカピに乾いたどす黒い薬草。
「これは本当に新品の素材なのか……!?」
「はい、そのはずですが。先ほど届いたばかりですので」
「だったらなんでどれもこれもクズ素材なんだ!?」
「え!? そんなはずは……ホントだ!」
キラも素材を確認し、驚く。
まさかコイツのせいじゃないだろうなぁ?
だとしたら白々しい芝居だが……。
「どうなってる!? これじゃあ倉庫にあるのと変わらないぞ? 新しく発注した意味がないじゃないか! おい、レナ!」
俺は遠くにいるレナを怒鳴り、呼びつける。
アイツに訊けばすべてわかるだろう。
「はい、ギルド長」
「発注をしたのはお前だったよな? どうしてこうなった?」
「私はいつも通り発注をしただけですが……」
「うるさい! いい訳をするなこのゴミ虫め!」
俺はレナに強烈なパンチを喰らわせた。
俺はいい訳をするヤツやごまかすヤツ、噓をつくヤツが大嫌いなんだ。
女だろうがようしゃはしない。
部下にナメられたら終わりだからな。
「ギルド長! レナさんが可哀そうだ」
「は? 黙れよカス。お前も殴ろうか?」
キラのやろう、ナメた口をききやがる。
俺に指図するなんて何様のつもりだ?
「僕ならいくらでも殴られますよ! ですから女性に手を上げるのだけは!」
「は? お前レナのことが好きなのかよ? こいつは俺の女だぞ? 俺の好きにして何が悪い」
俺はキラにつめより、ヤツの胸ぐらを押さえつける。
思った通りのヒョロガキで、簡単にぶち殺せそうだ。
こんな弱い身体で俺にはむかうつもりか、コイツ?
「で、ですが……」
「こいつは殴られて喜ぶ変態女だからいいんだよ。なぁレナ?」
俺はレナのケツを強く握りしめて言う。
もしもここで反抗しやがったら、そのまま握りつぶしてやる。
「は、はい……」
「……っく。レナさん……」
キラは小さく歯噛みしている。
これはキツく言っておく必要があるなぁ?
「おい、次にナメた口きいたら、ぶち壊すぞ?」
「は、はい……。すみませんでした、ギルド長……」
「……っち。わかればいいんだよ」
……で、だ。
いったいなぜ、届いた素材がこうもクズばかりなのか。
いいことを思いついた。
「おい、お前たち。わからないなら、そのゴミ素材を売りつけてきた商人を連れてこい! そいつに直接きけば、わかるだろ。なんでもっと早くそうしないんだ? のろまばかりだなぁ」
「そ、そうですね! 商人が間違えてよこしたのかもしれませんしね……。さすがギルド長です! 自分は思いつきませんでした」
キラがさっきのことをばん回しようと、俺に必死に媚びを売ってくる。
こういうところが憎めないヤツだ。
世渡り上手なバカは、バカの中でもまともな部類だ。
嫌いじゃない。
「そうだろう、そうだろう。君みたいな無能はね、俺をもっともっとホメるといいよ? 俺はギルド長だからね。出世させるもクビにするのも、すべては俺次第ってわけ。ポーション師くんは、そこのところわかってなかったからねぇ?」
「そ、そうですね……」
「かしこいお前なら、わかるだろう? 俺の気分を害したら、どうなるのかをね?」
「は、はい」
「だったらさっさと、商人に連絡しろよ!」
「は、はい! ただいま!」
◇
俺はギルド長のイスに座り、どうどうと構える。
商人にナメられればおわりだ。
あいつらはすぐにぼったくろうとしてくるからな。
「ギルド長、商人の方をお連れしました」
「お、遅かったな。だがまあいい、許す。通せ」
俺が言うと、キラが商人を部屋に通した。
レナがお茶を用意している。
若い商人は、俺の向かいのイスにこしかけた。
「どうも、いつもご注文ありがとうございます。商人のメリダです」
「あいさつはいい。俺は怒っているんだ」
「はぁ……。なにか不備があったようなら、あやまりますが……。どうかされたのですか?」
「これを見ろ。今日届いた素材アイテムの、箱だ」
「ですね」
「はぁ?」
ナメてるのかコイツ?
俺はクズ素材を手につかみ、商人に向かって投げた。
「このクズ素材の山はなんだって聞いてんだよ!!!!」
「ですから、薬草(F)2000個ですね」
商人は顔色ひとつ変えずに言う。
ムカつくヤロウだ。
思えば、あのポーション師も、こういう態度をとるヤツだったな。
最近の若い連中はみんなこうなのか?
「だれがそんなものを頼んだというのだ!!!!」
「ですから、あなたです。注文通りですよ?」
「は? 嘘をいうな! 騙そうったってそうはいかないぞ!」
「これをご覧ください。注文の仕様書です。最初の契約で、このギルドにはランク(F)の素材
商人はそう言って、机の上に書類を並べた。
たしかに、契約書で間違いなさそうだ。
信じられない。
「嘘だろ……? なんでこんな……」
「なんでも、予算がたりないから、クズ素材じゃないと数が足りなくなるとかなんとかで……」
「は? 予算? たしかにポーション師に渡してた予算は少なかったが……」
「最初に注文いただいたときに、ヒナタさんがそうおっしゃっていたんです」
ヒナタ……?
あのクソポーション師のヤロウか。
絶対ゆるせねぇ。
「なんでそんなことを……? いくらなんでもこれじゃあ使い物にならないだろう」
「ですから、ヒナタさんが工夫をしていらしたんです。スキルを使ってね」
「スキル? そんなこと聞いてねえぞ……?」
「え? そうなんですか? ヒナタさんは、クズ素材からでも、そこそこのポーションを作れるんですよ? いやーすごいですよねぇ。商人としてはうらやましい限りですよ」
「どういうことだ……。アイツが? そんなことを?」
「ですから、ヒナタさんに渡せば、解決してくれますよ。今日は休みなんですか?」
「あ、アイツは……クビにした。だからもういない!」
「え、ヒナタさんをクビにしたんですか? そりゃあバカなことをしたね……」
「うるさい! バカはお前だ! とにかくこれは返品だ! さっさと持って帰れ、そして失せろ」
「は? そんなことはできませんよ、こっちだってこんなクズいらないですからね、あんたのミスだろ?」
なんなんだこの商人!
ムカつくムカつくムカつく!
それもこれもアイツのせいだ!
死ね死ね死ね死ね死ね!
くやしい!
くやしい!
くやしい!
「俺に口ごたえするな! おいキラ、さっさとコイツをつまみ出せ!」
「は、はい」
「なんなんだアンタは! いきなり呼びつけておいて、いちゃもんつけたあげくに、つまみ出せだと? もうアンタに売る薬草はないからな!」
商人は捨て台詞を吐いて、ギルドを出ていった。
いい気味だ。
あんなクズとの取引、こっちから願い下げだ。
商人としての態度がなっていない。
「……っち。とんだ災難だったな」
「すみません、自分がもっと確認しておくべきでした」
レナが頭を下げる。
「本当にそうだよ。無能だな」
「次からは気を付けます」
「そうだといいがな」
まあそれはそれとして、だ。
「これをどうするかな……」
俺は残った大量のゴミ素材――薬草(F)2000個を前に、そうつぶやくのだった。
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