第37話 空の旅は優雅です


 ギルドを出発して20分後、

 マキナ達は見渡す限りの荒野の遥か上空を飛行していた。


「あっはっはっはっは〜皆見て見て〜!!」


 ワイバーンに乗ったアリアはぐるぐると回転しながら飛翔していた。


「アリア、もうその辺にしときなさい!」


「えーいいじゃん! 楽しいんだもん!」


「見てるこっちが恐いんだよ!」


 離れた所を飛ぶマキナが冷や汗を掻きながら注意するが、アリアは止める気配が無い。


「……全く」


「ふふ、楽しそうで何よりじゃないか」

 

 ベローネの口元が緩む。


「昔から随分困らせられたもんだ」


「その割には嬉しそうな顔を浮かべているじゃないか」


「俺そんな顔してたか?」


「ああ、妹を見守る兄の眼をしていたぞ」


「そっか、何か恥ずかしいな」


 マキナは自分のすぐ後ろを見やる。


「どうしたステラ、さっきから何も言わないじゃないか?」


「……え、い、いや、何でもない、何でもないわよ!」


 ステラはマキナの腰にしがみつきながら言葉を返す。

 彼女は自身のグーで、アリアとベローネのチョキを粉砕することでマキナと2人乗りを実現させていた。


「本当に大丈夫か、飛ぶ前まであんなに元気だっただろ?」


「い、いいから前向いときなさいよ!」


「?」


 マキナは向き直る。


「……ステラ、もしかしてお前」


 そして深刻な顔を浮かべながら言った。


 すると。


 「――はぁ!? 別にアタシがアンタのことをどう思ってるとかそんなんじゃないから勘違いしないで!! 大体これはさっきも言ったけどただの自己犠牲に過ぎない訳でアタシは仕方なくやってるのよ!! 本当は1秒でもこの状態をやめたいと思ってるくらいだし! これ以上変なこと考えたら許さないから、絶対許さないから!!」


 線が切れたかのようにステラは捲し立てた。「ぜーはーぜーはー」と息を整える音でマキナは戸惑う。


「ステラ、早すぎて全然分かんなかったぞ……」


「うっさい!」


 ステラはしがみ付いている腕の力を強めた。


「俺はただ、高い所が苦手なのかなって思ったんだよ」


「へ」


「だけど今の調子を見たらどうやら杞憂だったらしいな」


「な、何よそんなことだったの……高い所なんて全然余裕よ!!」


「それなら良かった、突然早口で喋るからびっくりしたぞ……確か、「アタシがアンタのことを――」」


 ボカッ!


「がはぁ!?」


 マキナはステラに背中を思い切り殴り付けられた。


「う、嘘だろ!? ステラ、今殴ったのか!?」


「黙れ黙れ黙れぇ!!!!」


「地上まで100メートル以上離れてるんだぞ! 落ちたらどうするんだ!?!?」


「いっそ落ちたらどう!!!!」


 ボカッボカッ!!


 マキナがステラの攻撃を食らう度、ワイバーンが左右に揺れ動いた。


 そんなこんなで更に数分後、

 マキナ達は切り立った崖に差し掛かる。


 ギュロロ!!


 ワイバーンが鳴き声を挙げた。

 ここから崖を越えるため、更に上昇することを伝える合図だ。


「皆、しっかり掴まれ!」


「うん!」


「ええ!」


「了解だ!」


 マキナの言葉を聞いた3人が身構える。


 ワイバーンは身体を崖の表面と平行になるように体勢を変えると、翼を大きく羽ばたかせた。


 風を切るようにぐんぐんと上昇していく。


 そして、

 4人は崖を越えた。


 一面に広がる荒野、

 だが真っ先に目に入ったのは、その景色を覆い尽くしてしまうほどの巨大なモンスターの姿だ。


 岩石のような皮膚に覆われた脚、

 背負う甲羅には、険しい山岳や森林といった自然が生い茂っている。

 命に満ち溢れたその姿、正に楽園の如し。


 「これが……楽園竜アイランドドラゴン!?」


 「おっき〜い!?!?」


 ――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


 大地を闊歩かっぽする地竜は、重厚な鳴き声を挙げた。

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