二人の心

瑞希 綵

第1話・心の穴

下校途中にコンビニで飲み物を購入し、帰宅途中にある公園に2人の少女が

話していた。

「美味しいね、このジュース!」

無表情で飲み続ける少女の隣の友人が感想を述べる。

「これは早速イツッターに上げなくては!」

制服のスカートのポケットからスマホを取り出し、カメラモードにて飲みかけの

ジュースを撮影し始めた。

「イツッターに上げるの?それ」

無表情で飲んでいた少女が飲むのを中断してから問う、友人は輝いた顔で答えた。

「もちろんだよ!常に思い出になる物は上げて、私のイツッターをアルバムにする

んだよ!」

「なるほどね」

無表情の少女は元気な友人を見ながら、微笑んだ。

「あっ、紗沙が飲んでるジュースも美味しそう!!」

友人が無表情で飲んでいた紗沙のジュースを指差した。

「これは流行とかにはならないよ、明里(あかり)」

「ううん、流行とかいいから撮らせて!」

明里は紗沙からジュースを借りると、スマホのカメラで撮影し始めた。

そんな明里の様子を見ながら、紗沙はいつも思う。

(楽しそうだな・・・)

昔から人が楽しんでいる姿、楽しむ声、喜ぶ声、笑顔、人が誰しも持つ感情表現。

紗沙はそれを毎日見てきた、そして見る度にいつも思うのだった。

(何がそんなに面白いのだろう・・・)

「ありがとう!紗沙!」

撮影を終え、イツッターに上げた明里が借りていたジュースを紗沙に笑顔で返してきた。

「もういいの?明里?」

「うん!もうバッチリ!ありがとうね!」

明里の笑顔を見つめる紗沙、そしていつも思う。

(自分もあんなふうに笑えたら幸せなのかな・・・)

紗沙はそんな事を思いながらジュースを飲むのを再開した。

「ただいま」

紗沙はあれから友人の明里と別れて帰宅した。

「お帰りなさい、紗沙」

リビングから母が出迎えてくれた、そんな”あたたかさ”を感じた紗沙

は微笑みながらお母さんに答える。

「・・・ただいま、お母さん」

「お疲れ様、着替えておいで」

「うん、ありがとう」

紗沙は母とのいつもの会話を済ませて、自室へと向かった。


ガチャ、バタン

ドアノブの音、扉が開閉する音を聞きながら部屋の中へと進む。

制服をシワにならないように綺麗に掛け、着替え始めた紗沙。

「18時か・・・」

机の上に置いてある置時計を見ながら呟く、暫く時計を見つめた紗沙。

「紗沙、ご飯食べる?それともお風呂にする?」

お母さんの声が紗沙の部屋にお邪魔して来た。

「ご飯食べるよ!」

紗沙は時が止まったように置時計を見ていたが、お母さんの声で時を再開した。

「・・・ふぅ」

食事を終え、お風呂に浸かる紗沙。

「今日も無くすのか・・・」

水面を見ながら呟き、そしてお湯からとり出した左手を天井に向け、手を開き見る。

「いつまで・・・」

紗沙は開かれた手を見ながら、暫くお湯に浸かっていた。


チッチッチッ、置時計が正確に時間を刻む。

紗沙はそんな置時計を見つめながら、ベッドに横になっていた。

時刻は23:58、日付が変わる時刻にもうじきなろうとしていた。

「・・・」

紗沙には親にも隠している事があった、親に心配させたくない気持ちと

例え言ったとしても常識的に有り得ない事だから黙っていた。

0:00となった、すると紗沙は自然と泣き始めていた。

「・・・・ッ」

紗沙は止まらない涙をティッシュで拭いていく、そして頭痛がし始めて

両手で頭を押さえる。

それと同時に頭に浮かび上がった今日の明里の笑顔、お母さんの”あたたかさ”が

色あせて消えていく。

「・・・・・・ッッ」

0:01となり涙と頭痛が止まったが、紗沙の心は穴が空いたように空っぽに

感じた。

「終わった・・・」

紗沙はそう言うと、すぐに眠りにつくのだった・・・。

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