第28話⁂翔の正体!⁂



 昴が、港区のマンションに越して来て3ヶ月程経ったある日の事だ。



 あの日、運動神経抜群の翔は学校から帰って来ると、離れを隈なくチェックしたのち、母屋と反対方向の窓が開けっぱなしになっている所を、確認して雨樋の金具部分に足を引っかけ二階に上って行く。


 又何故そんな無鉄砲な事をしたのか?


 丁度時期的にもクーラ-を入れるほど暑い訳でも無く、かと言って締め切っていれば暑苦しい、そんな丁度紫陽花が見頃を迎えた6月の事だ。


{この日を待ってました!}とばかりに二階に上る翔。

 そして部屋の中を覗き込んでいる。


 するとテーブルの上で、パソコンに向かってパソコンをいじっている人物を発見。

 コッソリと部屋の中に侵入した。


 そろ~り!そろ~り!とそのテーブルの人影に近づき、ソ~ッと覗き込むと………?

 何とみかん箱に頭ほどの大きさのぬいぐるみを置き、フード付きパ-カ-が掛けられていた。


 今まではあんなに厳重に四隅を締め切っていたのに、まるで部屋の中に入ってくれと言わんばかりにカーテンが靡いて………?


 その時だ。後ろから忍び寄る影………翔は思い切り強く鈍器の様なもので殴られその場に倒れる。


 実は父の幸三郎が、小型監視カメラでチェックして慌ててこの離れにやって来た。

 何故幸三郎と琴美夫婦はそんなに、この離れへの侵入を拒むのか……?


 そこには琉生の一連の事件に関わる、多くの謎が隠されているからなのだ。

 それとこの一家を守る為でもある。


 そして後ろから物音を立てずに””そろ~りそろ~り””近付き、鈍器ではなく足で背中を蹴り倒したのだった。


 当然翔は死んでいない。

 それではその後翔は一体どうなった……?

 翔は素早く逃げたのだ。


 その後昴は無理矢理、元居た幸三郎両親のもとに返された。

 要は翔は昴の影武者としてあの家庭の秘密を探るべく、幸三郎家に送り込まれたのだ。


 でも一体何故、影武者を送り込む必要が有ったのか?



 それは警察官エリ-ト夫婦の徹と弓枝は、幸三郎家の周りで多くの人々が行方不明になっているのを以前から不審に思い調べていたのだ。


 何と言っても大切な息子昴が、人質状態でいつ何時どんな事件に巻き込まれるか気が気ではない。


 また息子の翔は両親の影響を強く受けており、とりわけ現場を飛び回る母に強い影響を受けている。


 母はなんと、実は特殊部隊SITの一員なのだ。


 まさに犯罪が行われている現場に出向き、犯人と対峙するSITは、犯人と粘り強い交渉を行うなど、最前線で命がけの任務にあたっている。


 この様な姿を日常的に垣間見ていた翔は、子供の頃からスポーツ万能で、優れた身体能力を持ち合わせていた為に、日に日に「母のようになりたい!でも僕は優れた体力や技能、精神力を持ち合わせている隊員で構成される、スペシャリストSATになりたい!」そう強く思うようになって行った。


 最初の内は徹と弓枝も「並大抵では入れない特殊部隊など大変だから止めときなさい!」と大反対だった。


 それでも「どうしてもSATの一員になりたい!」と食い下がる息子の夢を何としても叶えさせてやりたい。


 そこで徹と弓枝は家で秘密裏にSATになるべく厳しい特訓を行っていたのだ。


 そんな経緯があり、幸三郎家の周りで多くの人々が行方不明になっているのを以前から不審に思い、幸三郎一家の秘密を暴くべく翔を送り込んだのだ。

 こんな任務も遂行できないようでは、到底SATにはなれない。


 それだけ厳しい、日本でも指折りの優秀な人材しか合格出来ない狭き門なのだ。

 親も息子の夢を何としても叶えさせたい一心。


 獅子は生まれたばかりの子供を深い谷に突き落とし、這い上がって来た生命力の高い子供のみを育てるという言い伝えの『獅子の子落とし』


 息子の夢を何としても叶えさせたかった2人はこの『獅子の子落とし』を実践したのだ。

 それが幸三郎一家に送り込む事だった。


 一見殴られて逃げて帰って来ただけに見えますが、しっかり内部を観察していたのだ。


 離れによじ登って昴が、すりガラス越しに見た素早く、勢い良く動く正体。

 それは琉生が飼っていた3匹のニシキヘビ蛇の仕業だった。


 それも巨大化しているので、六畳間が蛇専用の部屋になっている。

 特に神経障がいを持つ巨大化したニシキヘビは、首をグルグルうねらせながら何とも滑稽で不気味だ。

 部屋中を傍若無人に這いずり回る姿は空恐ろしい、今にも舌をべろべろ覗かせて襲い掛かってきそうだ。

 首をくねくね上へ下へと不気味に這いずり回るニシキヘビ。


 特に餌の冷凍マウスには勢いよく飛び付く。

 その素早さときたら迫力があり恐怖で足が竦む思いなのだ。


 この蛇は生前、琉生の唯一の友だったニシキヘビ。

 人と接する事が苦手だった琉生は、鳴き声を出さない、構ってくれと甘えてこない、おとなしくて、気の向くままに接してあげられる所が魅力で大切にしていたニシキヘビだったのだ。


 思考や感情を表に出さない琉生には、このニシキヘビといる時が唯一心が安らぐ時間だった。


 もう琉生が亡くなってずいぶん経つが、生育環境によっては35年も生きる事もあるのだ。


 また他の部屋には開かずの間が存在していて、床下に続く地下が有った。

何か………恐ろしい秘密が徐々に頭をもたげて————



【特殊急襲部隊(とくしゅきゅうしゅうぶたい、 SAT(サット))は、日本の警察の警備部に編成されている特殊部隊。対テロ作戦を担当、ハイジャックや重要施設占拠等の重大テロ事件、組織的な犯行や強力な武器が使用されている事件などを主たる任務としている。また、凶悪事件にも出動する。「SAT」に入隊できる人数は限られており、毎年、特殊部隊試験は狭き門】


【特殊犯・特殊捜査係「SIT」とは特殊犯罪を取り扱う組織を指します。SITとは正式名称ではなく、警察庁と各都道府県警察内で特殊犯罪を取り扱う組織の総称】











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