第15話 挨拶は基本です

 門番の待機室は元ゲリラの方々もいるので満員です。

 夜中に頭を叩かれました。


「連日の襲撃ですか」

「いや、魔獣だ」


 野生動物でしたか。

 しかし、ただでさえ侮れないのに、ここの動物は遺伝子改造を受けてます。

 大きいので食料としては優秀だと思いますが、どうなんでしょう。

 私としては草食動物を大きくしたら良かったと思います。


「さて、皆さん仕事です。復唱! ご安全に!」

「ご安全に!!」

「よろしい、声も揃っていい具合です。さぁ、駆け足」


 開けられた通用門から外を見ると、光る眼が幾つも見えます。

 動物ですし、初手はこれで行きますか。


 魔道具発動。

 聖なる光ホーリーライト、強め出力。


「キャイン」

「キャウン」


 犬のような悲鳴が聞こえます。


「さあ、止めを刺して下さい」


 元ゲリラの方々は手元を見て、戸惑っています。

 ああ、武器を配るのを忘れていました。


「さあ、好きなのを取って下さい」

「ただの棒じゃねえか」

「銃刀法に触れないのがこれだけだったんですよね」


「銃刀法ってなんなんだ?」

「さぁ」

「偉い人の言葉は難しくていけねぇ」


「武器を所持してはいけないという法律です」

「そういう、あんたはどうなんだ」

「私ですか。この剣は社員販売で買ったものです。石も切れますし、きっと工具扱いなんでしょう。会社に間違いはありません。前の会社では、売っていた商品が違法だったとかで、社長が逮捕されてますが、私は起訴された事はありません。安心して下さい」

「もう、なんだかな」


 元ゲリラの方々の目が理解しがたい物を見るような目です。


「さあ、ぐずぐすしないで行きますよ」

「やってやるぜ」


 元ゲリラ達が通用門を出て魔獣と対峙します。

 むっ、大きい野犬ですね。

 牛ほどの大きさがあります。

 目が見えなくても野犬はそれほど困ってないようです。

 犬はそんなに目が良くないと聞いた事があります。


炎の矢ファイヤーアロー


 むっ、いけませんね。

 研修が身についてません。


「注目! 手本を見せます。いらっしゃいませ、炎の矢ファイヤーアローです」


 丸太ほどの炎の矢が複数の野犬を焦がします。


「ギャウン」

「ギャア」

「キャン」


 野犬に怯えが見えます。

 どっちが上か理解したのでしょう。


「ありがとうございました。分かりましたか。彼らはお客さんです。いらっしゃいませと死んだ時のお礼は言いましょう」


「キンロウ、それはちょっと」

「そうですか。この野犬の退治報酬で彼らは生きていけるのです。お礼を言わないと」


「やってやるぜ。いらっしゃいませ」


 元ゲリラ達が棒で野犬を叩きまくります。


「このこの、死にやがれ。ありがとうございました」

「いい忘れていましたが、自分で倒した野犬は覚えておいて下さい。それがあなた達の食い扶持です」


「おら、俺達も行くぜ」

「そうだ、出遅れたが獲物は残ってる」


 様子見していた同僚達が一斉に野犬に群がります。


「俺達も負けられねぇ。いらっしゃいませ! ありがとうございました! またのご利用をお待ちしておりますとくらぁ!」


 ふむ、挨拶も板についてきたようです。


 むっ、小型トラックほどもある野犬が出てきました。

 ボスですかね。


 手本を見せないと。


「いらっしゃいませ」


 魔剣を起動して首を両断します。


「ありがとうございました」


 私は丁寧にお辞儀します。

 そうだお辞儀も教えないとですね。


 野犬が逃げて行きます。

 元ゲリラ達がほっとした様子で逃げた野犬を見送ります。


「またのご利用をお待ちしております」


 私はそう言って、野犬を見送りました。


「またのご利用をお待ちしております!」


 元ゲリラ達も声を揃えて復唱します。


「この挨拶ってのはいいよな。相手の気迫に飲まれないで済む」

「そうだな。なんかいくらでも掛かって来いと思えるんだよな」


 おお、社畜精神が芽生えてきたようです。

 これは挨拶は卒業しても良いのかも知れません。

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