第9話 ほうれん草は大事です
「もしもし、キンロウです。仕事の報告をしたいと思います」
『報告はしなくてもいい。今、状況は確認した。不味い事になっているな。いや、不味くないのか』
「何か不手際があったでしょうか」
『タイムレコーダーだが。不具合がある。我々の仕事スイッチが影響しているのだ。そなたに莫大な恩得を与えてしまった』
ええと、管理職の仕事スイッチはナノマシンによるドーピング付きですか。
理解しました。
管理職は激務なのですね。
「恩得を返してもいいのですが」
『それは無理だ。もう記録されている』
「手続きの関係で変更が利かないとみました」
『そうだ。その理解で合っている。今回は私のミスだが、叱責は受けないだろう。滅びの因子を一つ潰したからな』
「褒美と言ってはなんですが、ティアさんに睡眠学習をしてもらえないでしょうか」
『ああ、言語をインプットした事か。彼女には施せない』
「そうですか、残念です。今日は仕事を上がってもよろしいでしょうか」
『よくやった今日はゆっくり眠れ』
「お疲れ様でした」
『ああ、お疲れ』
頭の繋がりが切れました。
「誰と話してたのよ」
「上司です」
「念話、念話魔法なの。実用化されてないはず」
「たぶん管理職権限だと思います」
「そう、分からないけど、なんとなく分かった」
「睡眠学習ですが、駄目でした」
「そう、期待してなかったけど、ちょっと残念ね」
「今日はゆっくり休んで良いようです」
「上司が優しくて良かったわね」
「ええ。では、私はここで。お疲れ様でした」
「お疲れ様」
宿の部屋のベッドに入ってタイムカードに退社時間の印字をします。
どっと疲れが襲ってきます。
眠りに一瞬で入りました。
街の繁華街の入口で父を見かけました。
若かりし頃の父です。
ああ、夢ですね。
父は知らない人に話し掛けてます。
「よう、懐かしいな。えっと誰だっけ」
「あなた誰ですか」
「飲めば思い出すと思うんだな。そこで一杯やってかないか」
「放して下さい。警察を呼びますよ」
「ちっ、乗りの悪い奴」
「お父さん止めてよ。知らない人に酒をおごらすの良くないよ。恥ずかしい」
「お前もな。俺ぐらいの歳になったら分かるんだ」
恥ずかしさ一杯で家に帰ります。
「いい、勤。お父さんみたいなごく潰しになったら駄目。力の限り働くのよ。そうすれば幸せになれるわ」
若かりし頃の母だ。
「はい」
電話が鳴ります。
「もしもし、均浪です。えっ、うちの主人が。すぐに伺います」
「何かあったの」
「あいつがね。近所の新築祝いで、呼ばれもしないのに押し掛けて、大酒のんだのよ。死んでくれたら良かったのだけど、盛大に小便を漏らしたらしいわ」
「うわっ、僕、明日は学校を休みたい」
「駄目よ。働かないお父さんみたいな人間になったらいけないと、心に刻むのよ。虐められたら悔しさを労働の意欲に向けるの」
「分かったよ。働かない人間にならない」
目が覚めました。
実に不快な記憶です。
しかし、体はぐっすり寝て疲れがすっかり取れました。
いけませんね。
こんな事では。
仕事で疲労困ぱいにならないと。
冒険者ギルドの入口でタイムカードを印字します。
ドーピングの必要はないですが、タイムカードを押さないとやる気が出ないです。
ドミニクさんでしたっけ、今日も厚化粧が映えてます。
浄化した槍と墓場の警備の依頼書をカウンターに置きます。
「今日も凄いのね。それでデートは何時にします」
「昼飯の時にどうですか?」
「本当は夕方が良いのだけど、昼は交代で休めるから、それで良いわ」
槍の清算を終えて薬草採取の依頼を取ります。
マニュアルをチェック。
ティアも来たので森に出かけます。
ゴブリンさん達が寄って来たので、整列させ食事を振舞います。
「ええとゴブリンの皆さん。雇用契約を結びませんか」
「もっと簡単な言葉でないと分からないと思うわ」
「雇われてみませんか」
「ぐきゃ」
イエスと言っているように思えます。
「では行きますよ。
額に従属紋が現れます。
成功しました。
ゴブリンさん全員をテイムしましたが、別に私の体に異常はありません。
「あなた、どんな魔力量しているの」
「管理職権限ですよ」
「何を管理しているのよ」
「ええと仕事です。今ですとゴブリンさんの仕事です」
「少し頭が痛いけど、分かったわ」
「今日はこの草を集めて下さい」
サンプルの薬草を渡すとゴブリンさん達は匂いを嗅いで探します。
ふむ、きょうも大収穫ですね。
人が多いと仕事も捗ります。
ところでこの薬草は誰が薬にするのでしょう。
製薬会社じゃないですよね。
個人的に漢方薬を作っている人がいるのでしょうか。
後で本を買わないと。
薬草採取も終わりましたし。
デートには間に合いそうです。
「急いでいるようだけど何かあるの?」
「受付嬢のドミニクさんとデートです」
「駄目よ。受付嬢は貢がせるのが常套手段なんだから」
「分かっています。そういう匂いがしましたから」
「そう、分かっているの。でも心配だからついていくわ」
「では、3人で食事会としましょう」
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