もう一度

Yasu\堂廻上山勝縁

 もう一度

私の名はウィリアムと言う。




とある国の軍人だ。




もうここで働き、十年。歳は一ヵ月ほど前に四十三になったばかりである。




一年程前にやっとの思いで陸軍大臣にまで出世したのだが、一つだけ私には問題があるのだ。




それは、妻がいないのだ。




実を言うとちょうど十年前にはいた。いったい何があったのかって?さらに五年遡ればわかる。




あの時、やっとの思いで私は彼女にプロポーズしたのである。




思えばあのころが一番、私も輝いていたのだろう。父も母も喜んでくれたし、彼女の両親は私とも気があってので、「幸せにしろよ。」としか言われずに結婚に至った。




とても彼女は美しかった。花のように笑い、いつも私に気を使ってくれた。




とても、とても、素晴らしい妻だった。宇宙一可愛いんだと私は信じている。




それも、長くは続かなかったけどね、、、、






十年前、父と母が相次いで亡くなり、彼女の父は軍人だったので戦場の爆発に巻き込まれて同じころにこの世を去った。彼女の母の方はショックで立ち直れなくなり、ベッドから起き上がることもできなくなってしまった。




余程ショックだったのであろう。今も、思い出すと気の毒に思う。






そのあとだったんだ。幸せが終わったのは。




突然、彼女が別れを告げてきたんだ。




その隣には、その当時、俺よりも階級が上だった軍人スティーブが居たんだ。




スティーブは彼女との離縁を強制してきたのだ。




当時のあいつの階級は大尉。その時の俺は少尉。俺に拒否権というものはなかった、、、、




その時言った彼女の言葉は今でも印象に強く残っている。






(あなたとはもう飽き飽きなのよ、、、、残念だけど、あなたとはこれまでよ、、、)




ガーン!という音が心に響いた気がしたよ。




そこからは、見返したくて猛勉強と、普通なら耐えきれない訓練を俺の体に施した。




俺はそのおかげで今の出世があるんだと思っている。




少尉の家系だった俺を周りのやつらは大出世だと思っているに違いない。




ただ、あいつ、、、、スティーブとの縁は切っても切れない。




だって、あいつは今、海軍の方の大臣だぞ?




あいつも、いつの間にかあんなに出世した。俺はそれが悔しかった。昔から変わらぬ思いだ。




だから、ここまで頑張ってきたというのに、、、悪運の強い奴め!




まあ、そんなこと思ってもしょうがない。




どうせ過去は変えられないのだし、悔やんだって仕方がない。




今は前を向いて己の仕事をこなしていくのみだ。




俺は、そう思いながら雪が降る今日も政務に取り組むのであった。




・・・・・




ゼラニウムの花が咲くころ、俺は一つの仕事にとりかかっていた。




最近、国の税金が一部なくなるという事件が起こり、陸軍の方もその捜索に一部の兵を出したり、取り締まりの強化のために兵を出したりと、いろいろとやることがあった。




一仕事終えてすっきりした私はこの国一番の城の庭園で寛いでいた。






すると、一人の青年が私に話しかけてきた。




まあ、彼は私と同じく軍人であり同僚なのだが、、、それはいいとして、彼の名はカスールという。




階級は中尉だが、私の参謀の一人であり、頼れる仲間の一人である。




私は心が広いからあのスティーブみたいなことはしないのだよ。




「ウィリアム様、ご報告があって参りました。ここにおらっしゃるとメイドの方から聞きましたので。」




「うむ、ご苦労。して報告とは?」




「ハイ、こちらなのですが、、、」




俺はカスールから封筒を渡された。




ナイフで丁寧に切り、中の手紙を開ける。








内容に私は驚愕した。




その内容は、あいつことスティーブの部下の脱税疑惑と税金泥棒の犯人疑惑が書かれていた。




しかも、意外と証拠が出てきており、もうほぼ確定なのだという。




しかし、海軍の軍人などは特別な許可がなければ逮捕することなどできない。




だが、






「・・・よし、分かった!私が許可を出す!ただちにその者どもを捕まえよ!」




「御意!」






陸軍大臣である私の許可であれば別だ。




そして、スティーブの部下ならば、スティーブがかかわっている可能性もなくはない。




否、あの男のことだし、絶対に関わっているに違いない。






数時間後、カスールからスティーブが犯人と関わっていたことが確認できたと電話で報告が入った。




すでに、証拠は腐るほどあるのですぐにとらえることができた。




すでに、国家元首殿の許可も先ほど降りたので問題はない。






「お主もここまでだ。」




「おい!私を誰だと持っているのだ!?なぜ、このようなあつかいをうけねばならぬ!!?図ったのかウィリアム!」






やれやれ、ここまでくると呆れてくるな。






「すでに罪状は把握済みだ。たとえ大臣であっても法の前では証拠がある限り無力だ。」




「何だと!くそっ!部下がしでかしやがったのか!!くそがぁ!」






そんな感じでスティーブは冷静さを失い、怒り狂っていた。




まだ、罪状も何も読み上げていないというのにこんなことを言うとは、確実に黒だな。




本当に、救えない男である。




そんなことを思っていると、突如としてスティーブが耳を疑う発言をしてきたのである。






「くそ!あの時、あの時に貴様を爆死させていればこんなことにはぁぁぁぁ!!」






爆死?初耳だ。こいつ、そんなことを考えていたのか?




詳しく私はスティーブから話を聞いた。




すると、驚くべきことに元妻はスティーブに前々から目をつけられており、断れば彼女と俺もろとも爆発を引き起こして殺すつもりだったらしい。






私は当然激怒した。




この者には地獄すらも生ぬるいと思うくらいである。




よくよく考えてみれば、彼女が俺を捨てることは普通あり得ない。




俺も、よく考えてみればアホな男であり、最悪の男だ。




そうだ。あの偉大なる軍人である義父さんから彼女、、、ミナのことを託されたというのに、なんで今まで気づかぬままひたすら恨んでいたのだろう。






「・・・言い逃れはできぬぞ。スティーブ。お前にはこれから地獄の地獄、否、もっと苦しい処罰を受けてもらう。被害者である。俺や税金を出してくださっている国民。そして、お前を慕っていたもの達に、心から謝れ!」






俺は、そのままその場から去った。




スティーブが何か言っていたような気もするが、今はそんなのどうでもいい。






今は彼女のもとに向かわなければいけないのだから。






すぐさま、私は自ら車を走らせてミナがいる地、、、懐かしき場所へと走らせた。




私がいた懐かしきにあの、こじんまりとした家。




今は小さく見えるが、昔は私とミナの初めての二人の家だった。




車を止め、家の扉を叩く。






「・・・はい、どちらさ、、ま、、?」




「ウィリアムだ。久しぶりだな、ミナ。」








ミナは少し動揺していたが、しばらくすると、「どうぞ、お入りください。」と言って、そそくさと奥の方に行った。




無理もない。捨ててしまった夫がきたのだから。当然だ。




だが、今はミナ、君を俺を捨てた女だとは思ってはいない。






そして、家に入り、椅子の上に腰掛ける。




この家も変わっていない。あの時と同じように暖炉や机、花瓶まで置いてある。




昔の思い出がどんどんそうすると頭に浮かんできた。




そして、様々なことを考えていると、ミナも奥の方からやってきて、同じように椅子の上に腰掛けた。






ミナの顔の方をちらりと見てみると、前よりも少し顔色が悪い気がした。




きっと、スティーブのやつは酒をよく飲み、金の扱いも豪快だから、それで疲れているのであろう。




そう思うと、とても腹立たしかった。






「・・・あの、今日来られた理由は、、、私に復讐するためでしょうか?」




突然、ミナがこんなことを言い出した。




まあ、そう解釈されても仕方のないことだろう。




「・・・誤解している。」




「いえ、あなたはそういう人ですから。五年間の同棲と三年間の付き合いがある私だから分かりますの。先ほど、夫が逮捕されたとも聞きました。あなたは、私を怒っているでしょう。どうぞ。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ、、、私も、覚悟はできておりますゆえ。」






私は、ミナが絶望し、救いすらも捨てたような顔になっているように思えた。




離縁からもう十年。




私も様々なことを学んできたが、せめて、これだけは分かってもらいたい。






「・・・そんなことで来たわけじゃない。君ともう一度こうして語るために来た。」




「あら、ご冗談もうまくなって。」




「冗談などではない。」




「一体、何をおっしゃるのですか?」




「君のような、、、花のようなあなたに、罪なんてものは一切ない。俺を助けてくれたのだろう?スティーブが最後に吐いていったよ。」






俺はミナの緊張をほぐしながら、勇気を込めて言葉を言った。




「俺は君に対する愛は今も変わらん。」




「何を___」




「本当だ。信じてほしい。ずっと、逃げていたんだろう?怖かったんだろう?もう大丈夫だ。こんな俺をもう一度、信じろなんて言われても信じてもらえないかもしれない。だから、これからまたちょっとずつ、築きあげていかないか?」






その言葉に戸惑ったのか。




ミナは一瞬キョトンとした。




そして、慌てて私に尋ねる。






「あの、、、ウィリアム様?それは、、、」






すでに、もう疑いも晴れ、恨み言などない。なら俺が言えることは一つ。






「もう一度、やり直さないか?」






ずっと、心の奥底ではまだ君を愛していた。




今、隠していた思いをやっと言える。






二度目のプロポーズだ。




正直、恥ずかしい。多分俺の顔は真っ赤だろう。






その瞬間、ミナの眼から涙が少しずつ流れていく。そして、ミナはハンカチで涙をぬぐうと口を開いた。






「・・・・喜んでお受けいたします。あなた、、、」






そして、俺はミナに抱き着き、同じように涙を流した。




ありがとう。




また、信じてくれて、もう離すことはない。






俺だけの、俺だけの美しき花だ。


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