国外追放

 なにやらブツブツとひとごとをつぶやきながら、おひめさまは自室じしつのドアノブをまわそうとしました。けれども、かぎかっていてドアがひらきません。


 おひめさまのお部屋へやは、内側うちがわからのみ施錠せじょうができる仕様しようとなっています。つまり、なかだれかがかぎをかけていたのです。おひめさまは何度なんどもドアノブをまわしましたが、ドアがひらくことはありませんでした。



 なかるのはおかあさん?


 それとも、泥棒どろぼう化物バケモノ



 おひめさまのひたいわき背中せなかから、いやなあせがどんどんとてきました。 室内しつない不審者ふしんしゃよりも、部屋へやへとかえれないことに不安ふあんかんじていたのです。おひめさまは「けろ! けろ!」と、ドアをたたいては何度なんどさけびました。



 けれども、なんの返事へんじもありません。



 おひめさまは何度なんども「けろ! けろよ!」と、ドアをつよたたいてはさけびます。



 けれども、なんの返事へんじもありません。



 もうおひめさまのおかおには、高潔こうけつ可憐かれん面影おもかげはありませんでした。それこそ、おにのようにこわこわ形相ぎょうそうでドアをたたつづけていたのです。なが黒髪くろかみ学生服がくせいふくのスカートもみだして、はげしくったりもしていました。


 嗚呼ああ、はしたない!

 とてもおひめさまの姿すがたにはえません!

 やがて、おひめさまはつかて、とうとうそのにすわりんでしまいました。


 たくさんあばれたので、ととのえられた前髪まえがみくずれ、あせ下着したぎはだいてとても不快ふかいでした。おひめさまの綺麗きれいしろいソックスのかかとあかにじんでいましたが、興奮こうふん状態じょうたいのためなのか、不思議ふしぎいたみはかんじられません。


 しばらくしてから、おひめさまははなをすすりながらがると、きびすをかえして無口むくちのまま1階いっかいへとりました。今度こんどは、すりを使つかいません。両手りょうてをダラリとげたままです。



 食卓しょくたく椅子いす無気力むきりょく様子ようすですわったおひめさまは、テーブルの天板てんばんまえのめりにたおれ、おかおせたままきだしました。それは、いつもくやしいときにする、おひめさまの独特どくとくくせでした。どうにかなぐさめようと、おひめさまのあし愛犬あいけんのモモがやさしくめます。


 どのくらいの時間じかんったのでしょう。きゅうあたまげたおひめさまは、ほおらすなみだくちびるまでとどいた鼻水はなみずをセーラーふく袖口そでぐちぬぐい、ながしのしたから三徳さんとく包丁ぼうちょうして2階にかいへともどっていきました。


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