第40話

 はて……

 一通り品物を物色した俺は頭を傾げる。肝心要のものがないじゃあないか。

 店先できょろきょろしてた俺を商機と見たのか、はたまた不審者とでも思ったのか、奥のカウンターにいた店主がやってきた。


「何かお探しですか」

「ポーションどこです?」

「ポ……?」


 割と若いバイトリーダーみたいな見た目の店主は不思議そうにした。あの寂れたスラーオと違って、ここはまだ活気もあるし、店だって大きい。さすがに扱っていないなんてことはないだろう。ひょっとしてこの世界じゃ別の名称なのかな。


「回復薬というか、傷薬というか……ケガを治す……」

 すると店主は顔をポーションみたいな色にした。そうそう、そんな色した液体。そんな高度なボディーランゲージしなくてもいいのに。俺が店主のかくし芸に感心していると、腕をひかれ店の奥につれていかれた。何をするの乱暴する気なの?


「トモノヒ教徒ではないんですか?」

「無神論者です」

「なんてことだ……」

「おお、神よ」と言わんばかりに仰ぐ店主は、引き出しの聖書片手に説明をしてくれた。


「つまりですね、傷を癒す草、病を治す水といったものは、使えば魂の穢れとなり、神に背くとされています。使用はもちろん、所持や栽培も禁忌とされています」

 んなアホな。麻薬かよ。


「でも回復魔法はありなんですよね?」

「打ち身や切り傷など、あくまで自然治癒力を高める効果のある魔法は認められています。しかし、病気や猛毒の治療に該当する魔法は禁止されています」


 つまり回復アイテムはNG、魔法も状態異常回復はだめ。なんだその縛りプレイ。

 でも……。

「信者じゃなければ関係ありませんよね、それ」

 でも俺トモノヒ教徒じゃないから関係ねえ!


「そう言って薬品の密造をしてどれだけの人間が処刑されたか……」

 ドヤっていた俺に冷たい現実が突き付けられた。

「ただでさえ肩身の狭い非トモノヒ教徒は、どんな目に遭わされても誰も助けてくれません。人間扱いされないのです」

「ですよね」


 俺はもはやうなずくしかなかった。大多数の信仰する宗教とは、それ自体がその世界の規範であり価値基準なのだ。マオの両親が処刑されたガバガバ裁判を見るに、司法も牛耳られているのだろう。異教徒は弁護士をつけてもらえることもなく、そのまま死刑執行コースだ。


「いいですか? 病も傷も、試練なのです。それを乗り越える者のみが生き、そうでない者は死ぬ。それが神の定めた理……摂理なのです」

「そうですか。じゃあ今度本当にそうなのか聞いてみます」

「?」 

 頭上にはてなマークを浮かべる店主に別れを告げ、俺は何も買わずアイテム屋を去った。

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