第39話
現地民にはこれがウケる味なのだろうか。まあ現代日本レベルを要求するのは酷ではあるが、改めて自分は恵まれた世界にいたようだ。もっとも、技術的に恵まれていたというだけで、実質はクソゲー極まりないゴミだったことは今更言うまでもない。こうやって女の子にご飯あげただけで不審者扱いで通報だろうな、元の世界だと。世知辛いぜ。
しかし……
俺は横に座り貪欲に串焼きを貪り食う少女に横目をやる。まだお天道様も高い昼前だ。この子は学校に行っていないのだろうか。休みかな?
学校か……
「行きたかったな」
意図せず、ぽろっと口から出た。
足元の石を拾って川に放る。水面は小さな波紋を描き、やがて元の静止に戻った。
行きたかった。そう、学校には行きたかったんだ、本当は。
眠い目をこすって、嫌だなとか、休みたいとかぼやきつつ制服を着て、適当に朝飯つまんで、遅刻すれすれで教室乗り込んで……。退屈だなと思いつつ授業受けて、同級生とどうでもいい話して、帰り道は遊ぶ約束なんかして……
そういう日々が、送れたらと期待していた。
どうもそれは俺にとっては過度な望みらしく、現在に至るわけだが。それで多分にもれず異世界転生してみたものの、このざまだ。まともな職もねえ武器もねえアビリティもねえステータスもねえ。
魔法といったらこれだけ。
俺は人差し指をじっと見つめ、えいやっとりきむ。するとガス欠寸前のライターみたいな火が灯った。ちょっと温かい。
隣で袋を空にした少女はそれをじっと見ていた。ふふふ。どうだい俺の火炎魔法の威力は。怖かろう。悔しかろう。
「…………」
女の子は無言でその小さな両の手を広げて見せた。おっと降参かな?なんて舐めたこと考えた俺は速攻で打ちのめされる。
ボッ。そんなサウンドエフェクトをともなって、小さな指十本すべてに立派な火の玉がそれぞれに宿った。
やだ。俺の火力しょぼすぎ……
手のひらで唇を覆う俺をよそに、少女は食い散らかした串をそのままにして去っていった。飯をおごったら、なけなしのプライドを木端微塵にしてゴミだけ残していきやがった。この世界のようじょひでえ。ひでえよ。
ゴミを片付けた俺は引き続き街をぶらつく。武器屋をのぞいたら相変わらず装備できる武器なかった。一応なんかないのか店主に聞いたが、かわいそうなものでも見るような目で首を横に振った。火でもつけたろか、などと邪な思いを抱きつつ武器屋を後にし、俺はアイテム屋へ向かうのだった。
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