第15.5話 「雷華と亜衣」
――1日前。
画面上に表示されている名前、
「あれ? 雷華さん、どうしたんですか?」
「亜衣ちゃん。急に電話してごめんね、神鳴のことで力を貸してほしいの」
「――彼氏の件ですか?」
「知ってたの?」
「いえ、新しい彼氏ができた話は聞いてますけど、最近遊びにも行けなくて……。ちょっと気になってはいたんです」
「――じつは」
雷華は、これまで娘に起きた出来事を細かく話をした。しかし、娘から聞いた話と、雷華自身が思った意見が混ざり合い、事実と空想が入り乱れる。
娘が不快に感じるゲームソフトを所有していた在過に、優しく捨ててほしいとお願いしたにも関わらず、「ふざけるな!」と怒鳴り散らし暴れていたと。また、娘を悪役に仕立てるために、目の前でソフトディスクを裁断し、土下座をさせて謝罪させ、娘は大泣きで頭を下げたこと。
喧嘩など、人によって捉え方は違ってしまう。優しく言っているだけと思っていても、相手にとっては刃物で刺されるほど怖く、苦しいと感じる人もいる。また、好きな人、信頼している人が苦しんでいた場合、中立の立場と言っても、相手の方が数割ほど悪く見えてしまうものだ。
この時の在過は、彼女の為にとゲームを捨てたと認識しており、神鳴の為に捨てたのに、どうして理解してくれないのか……と言う疑問。
神鳴と雷華は、また違った捉え方をしている。神鳴にとっては、どうして私がいるのに、こんなにも怒るんだろう? 怖い、苦しい、悲しいと言う感情。
こんな気持ちになっているのに、在過は気づいてくれないし、やっぱり私のこと好きではないんだ。そんな気持ちが、心の中で渦巻いていた。
しかし、苦しそうな表情でゲームソフトを裁断している姿の在過も見ていたら「神鳴の為に――ごめんなさい」と言う気持ちが芽生えた。
その結果、神鳴は無意識であったが、ぶわっと溢れ出す悲しみの感情と共に、在過に対して謝罪したのだ。だが、その姿を隣で見ていた雷華は違う。
過去も現在も、娘が一番である。そんな娘が、目の前で
娘の友人てある、亜衣に話した出来事は"雷華の中では事実"なのだ。そしてまた、聞いた話から想像する在過と言う人と、亜衣自身の解釈によって”また別の人へと話が広がっていく"
これを嘘とは呼べない。神鳴が母親に話したことも、雷華が亜衣に話したことも。そして、亜衣が別の人に話したことも、その人達にとっては、すべて"事実"なのだと。
そんな事実を聞かされた第三者は、在過と言う男は"最低な男"として認識される。当然、在過は泣かせたつもりもなければ、謝ってほしいとも口にしていない。だからこそ反論する。
しかし、数人の同意見と一人の反論では勝ち目がない。このときは、在過本人は考えてもいなかった。ゲームソフトの一件から、無関係の人達を巻き込むほど話が大きくなり巻き込んでいくことを。
「雷華さん。その近藤って男、ヤバすぎるよ。このまま一緒に居たら、神鳴が壊れちゃう」
「えぇ。でも……まさか、あれほど泣かされて――在過君といるって、言われるとは思っていなかったの。パパが洗脳されてしまっているのかもって」
「……うち、近藤に会って警告してやりますよ。これ以上、うちの親友を虐めたら赦さないって」
「亜衣ちゃんまで巻き込んで、ごめんなさいね」
「雷華さんが謝ることないですよ! 雷華さんだって苦しんでるのに」
「いいえ。在過君も優しいのよ。確かに娘を泣かせた男だけど、ゲームを捨ててくれたし……助けてあげたいと思っているの」
「雷華さん、優しすぎますよ! だって恋人が嫌だって言うなら、捨てるのが当然じゃないですか。しかも謝罪までさせて。うちは、そんな男と神鳴を一緒に居させたくありません」
「ありがとね。あとで、彼の住所と職場の場所をメールしておくから。あと、録音したデータもあるから、よかったら確認してね」
「わかりました」
通話を切ると、雷華はクスッと笑い在過の自宅を見た。
その頃、雷華から話を聞いた亜衣は、知人やSNS上の友人に話を広めていた。SNS上の友人は、半数以上が神鳴とも繋がっており、ほぼ全員が神鳴の為に力を貸してくれる存在であった。
在過は、神鳴と出会ってからSNSを利用していたため、使い方も把握しておらず、ほとんど利用してはいなかったが、のちに大惨事になるキッカケとなる。
また、SNS上の友人に話が広まったきっかけで、ネット上の友達から神鳴に心配するメッセージが届き、そのことが火種となり、ある思いが神鳴の意識に芽生えていた。
――友達
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