第14話 「はじめての料理」
「おぅ……まじか」
「教えてくれたら、できると思う」
在過は、棚からお米を取り出すと神鳴に渡し、お米の炊き方をレクチャーする。ご飯を炊くだけなのだが、一緒に何かをやる、と言う行為がすごく幸せな気分を感じていた。
キッチンの隣で、一生懸命にお米を洗っている姿を見ながら、在過もハヤシライスの調理に取り掛かる。居酒屋経営をしていた祖母に、妹と一緒に料理を教わったこともあり、人並み以上には料理できる自信があった。
「もしもし神鳴さん?」
「ん?」
「お米を洗って、水を捨てるのはいいんだけど。ものすご~く、お米も一緒に流れているよ」
「大丈夫! 神鳴の愛の手から流れたお米は、絶対美味しくない」
「いやいや、もったいないよ!」
「えへへ」
「笑って誤魔化してもダメ」
「じゃぁどうするの!」
頬を膨らませながら、水に浸るお米を睨みつけている。そんな姿を笑いながら、在過はボウルとザルを取り出して渡した。
「まぁ、多少流れるのは仕方ないとしても、このまま数回やっただけで、全部お米消えるだろうから、これ使いな」
「もぉ~最初から出してくれたらいいのに!」
「へぇ~い」
お米の準備ができた神鳴は、教えてもらった通りに炊飯器のセットをする。その横で、在過は食材を切り、フライパンに具材を入れて炒めていく。中火てゆっくりと水分を飛ばすように炒め、赤ワインを少しずつ足していき煮詰めていく。
「うわぁ、いい香りする」
「我ながら旨そうだな。少し煮詰めたら、神鳴が頑張った、ご飯が炊き終わったら夕食にしよう」
数分煮詰めたあと、軽く味見をして蓋をしておく。ご飯を洗って、炊飯器で炊くだけなのだが、やり遂げた神鳴は奥の部屋でアニメを観ていた。早炊き設定しているとはいえ、まだ時間が掛かる。神鳴の隣に座り、在過も一緒にアニメ視聴して過ごしはじめる。
この時間、この空間に幸せを感じている在過は、テレビでアニメを見つめているが集中できなかった。隣に座る神鳴を時折眺め、この時間がずっと続けたい。そう考えていると、涙が溢れてきた。
ずっと寂しかった。一人でずっと働き、妹を優先して頑張ってきた。友達ともっと遊びたかったし、旅行や好きな物だって買いたかった。また、在過は家族に憧れていた。
今までのバイト先や学校でも、家族と一緒に旅行行ったり、外食へ行く話を聞く度に羨ましかった。誕生日やクリスマスと言ったイベントで、プレゼントを貰う話を聞かされた時も孤独感があった。
それを妹に感じさせない為、全力で妹のイベントは応援してプレゼントを用意した。しかし、帰ってくる言葉は、死にたい、こんな家族嫌だった、殺してほしい、楽にしてほしい。そんな言葉は、もう聞きたくない、やめてほしい。
いつしか、妹の存在が苦しく、在過の精神も心も限界だった。この先も、ずっとこのままの生活をするのだろうか? 働いて、妹からのネガティブな言葉を聞き続ける。
――なんの為に働いているのだろう? 疲れた。
そんな在過を救ってくれたのが、神鳴だった。
「在君! どうしたの? 大丈夫」
「あ、あぁ。何でもないんだ。たまにあるんだ」
神鳴は、隣で声を出さずに涙を流し続けている在過を見て驚いた。普通にテレビを観ている様子なのだが、画面を見ながら、静かに涙だけを流していた。
「大丈夫。大丈夫だよ、神鳴はずっと在君といるよ」
「うぅ……う、ぅうう」
神鳴は、在過を胸に引き寄せ、やさしく抱きしめた。むせび泣く在過に何も言わず、頭を撫でて抱きしめ続ける。ふんわりと甘く、神鳴から赤ちゃんのような匂いが在過を包み込む。その匂いは、嫌な感じではなく、在過は落ち着く感覚に落ちていく。
在過は、不思議に思っていた。就寝前に、真っ暗な空間でいろんな事を思い出し、辛く一人で泣くことはあっても、誰かの前で泣いたことはない。なのに、神鳴の前では我慢ができなかった。
自分の弱い姿を見せたくないはずなのに、なぜか……気持ちが緩んでしまう。今までの誰とも違う、神鳴が側にいる安心感と幸福感。彼女の言動や行動に、納得ができない部分は多いが、それでも在過は神鳴と一緒に過ごしたいと感じさせる女性だった。
「ごめん。ありがとう」
「ううん。落ち着いた?」
「そうだね。もう大丈夫」
「そっか。昔のこと?」
「……まぁね。最近よくあるんだ、一人でベットに横になっていると、気づいたら大泣きしてたり」
「神鳴がいるから、甘えてもいいんだよ~」
微笑みながら両手を広げている神鳴の姿が愛おしく感じ、在過はそっと口づけをした。いきなりの出来事に、照れている神鳴だが、お返しと言わんばかりに口づけをする。
「いままで、想像もしていなかったくらい幸せな気分だ」
「ほんと? なら嬉しい」
その後、二人は夕食を食べ終えて、明日の仕事に向けて、一緒に眠る。
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