　娘の彼氏宅から出てきた雷華は、少し離れた場所に駐車していた車に乗り込む。キーを差し込んでエンジンかけ、空調を一気に下げる。数回深呼吸をすると、ポケットから携帯を取り出した。

　携帯画面には、パパと表示された通話画面が映し出されている。

「あれほど泣いていたのに、まさか居たいと言うとは思わなかった」

「ふむ。思っていた以上に彼に洗脳されてしまっているのかもな」

「あぁぁぁ、ちくしょ！」

「――おちつけ」

「でも！」

「神鳴は通話を繋げていたんだろ？なら、何も変わっていないさ。まだ元彼の傷が癒えていないからな、一時的に彼に依存してるだけさ」

「分かってるけど！あの最低な家庭環境で育った男と、娘が過ごしてると考えるだけで不安になるでしょ？」

「これも、神鳴が将来幸せになる為の、試練なんだろう」

「・・・・・・どうして娘ばかり、こんな目に遭わなければならないのよ。何度も泣かされて・・・・・・」

「もしくは、私たちが彼を導き変えてあげるべきなのか。神鳴に相応しい人に、私たちが育てる。そんな選択も、考えた方がいいのかもしれないね」

「そうね。その方法も考えてみます」

　通話を切ると、ハンドルを強く握りしめながら、雷華は車の窓から在過の自宅を睨みつけ、先ほどまでの出来事を思い返す。

　雷華が、すぐに在過の自宅に到着できていたのは、早朝から娘の神鳴から電話があり、在過の所有物であるゲームソフトを捨てたいと相談があった。念のため娘から聞いていた在過の自宅付近で待機していたからだった。

　娘から、勝手に捨ててしまうと嫌われてしまうかも知れないと相談されていたが、雷華としては泣かせる彼と早く別れさせたい気持ちが強いため、どうしたら娘が彼を嫌いになってくれるのか考えながら、娘と通話して過ごしていた。

　そんな時に、在過と娘の話し声が聞こえると、娘の泣き出す声が聞こえたことで、チャンスと思った雷華が走って自宅に訪問した。泣いている娘と一緒になって、在過と話をすれば、彼は優しくない男だと印象づけができると考えた。

　だが、結果は思い通りにならなかった。雷華が望んだ結果どころか、その逆の不測の事態で、今まで言うことを聞いてきた娘が反論したのだ。母親より、彼と居ることを望んだ発言が、雷華を苛立たせるのに十分だった。

「パパの言うとおり、方法を変えた方がいいかもしれない」

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