第7話 「裏表」

在過は、一通り自身の家族構成を話し終えて、一息ついた。

今までのお付き合いをした人に話をしたあとは、高確率で怪訝な表情を見せていたが、神鳴カンナの表情はいつもと同じで、在過トウカは少し安堵していた。


お弁当を食べ終わり、テーブルを片付けたあと、お互いが明日の仕事が休みと言う事もありゲームをして遊ぶ。5対5のチーム戦で争うゲームで、フィールドをチームの色であるペンキ多く塗ったほうが勝ちと言うゲーム。


最初はゲームをしていて楽しいのだが、敵に倒されると不機嫌になり「あ~クソ、邪魔なんだよ」と暴言を吐きながらゲームをしている神鳴の姿を見て、そこまでしてやるゲームなのだろうか?と疑問にも感じていた。


「ちょっと休憩するね」

「わかった、神鳴は勝つまで続けるから」

「う、うん」


ゲームで疲れたと言うより、敵に倒されて暴言を言いながら画面を睨んでいる神鳴を観察した。

今回が初めてと言うわけじゃなく、いろんなゲームを一緒にやっていても負けると大声を出して「あーーーうっざ」と発言する神鳴。嫌ならゲームをしなければいいのに、人格が変わったかのように豹変する姿を何度も見ていた。


在過は、携帯にメールが来ていた友人とやり取りしながら、神鳴が勝ってゲームが早く終わることを祈っていたが。


「ねぇ! 誰とメールしてるの?」

「ん? 友達だけど」

「女の子?」

「いや、専門学校時代の男友達だけど」

「本当に? なら、見せて」

「いや、本当に男友達から」

「なんで! 見せられないの? ねぇ、見せて」


先ほどまでゲームに夢中になっていた神鳴が、在過の携帯を取ろうと迫ってくる。


「わかった、わかったから落ち着け」

「はいっ見せて」

「なら、神鳴も携帯見せてよ」

「なんで? 神鳴、だれともメールしてない」

「僕だけ見せるの、なんか不公平じゃん」

「別にいいよっ」


神鳴は、携帯の操作をすると在過に渡す。同じように、在過も自分の携帯を渡して、神鳴の携帯を受け取るが、売り言葉に買い言葉となってしまったが、別に神鳴の携帯が見たいわけじゃなかったし、どうでもよかった。


神鳴の携帯を受け取るが、適当に画面をスライドしてインストールしているアプリだけを眺めて、携帯をテーブルに置く。


「なぁ、もういいだろ?」

「だめ、この人だれ? 女の子じゃないの?」


携帯を見せつけてる画面には、在過が先ほどやり取りした相手ではなく、通話アプリの履歴一覧だった。そこには、今までやり取りしている人たちのアイコンが並んでおり、職場や友人、妹のやり取りもある。

在過は、先ほどまでやり取りしていたメッセージだけ確認すると思っていたため、すこし不快な気持ちが苛立ちになってしまった。


「いや、なんで他のやり取りまで見るの? さっきまでメールしてた人だけだろ? 知りたかったの」

「なんで? 見られたら嫌なの? 何か隠してるの? そんなことより答えてよ、この何人か女の子じゃないの?」


「そっちは妹。こっちは職場の人で、これは友人」

「なんで女の子と連絡とってるの? この時間帯って在君仕事終わってるよね、内緒で会ってるの?」


「いやいや、普通に職場の人とか友達なら連絡するでしょ? 神鳴だって男と通話してゲームしてるじゃん。それと一緒だって」


「ねぇ! ちゃんと答えて!! 答えないってことは、この千里チサトって人と会ってるんでしょ?すごく頻繁にやりとりしてる」


「その人は前職の職場の人で、お世話になった先輩なだけ」

「嘘、嘘嘘嘘! ほら、、とか書いてある。一緒に何処かご飯にでも行ったんでしょ? しかも、この日神鳴休みの日なのに」


「それは、誕生日だったからチョコレートをプレゼントしただけ。そのお礼だから」

「本当にそれだけだったら、こんな絵文字使わないもん。確かめるから、いま電話して」

「はぁ? 夜遅い時間に無理に決まってるだろ。緊急でもないのに」

「ほら! そうやって隠蔽しようとしてる。電話されたらバレるからなんでしょ」

「違うって」

「なら、メールならいいよね」

「ちょっ! 勝手にメールするな」


神鳴は、在過のやり取りしている職場の女性【千里】へメールを打ち送信する。

【在過君の恋人で、神鳴です。って何ですか? 】


勝手にメール文を送信された在過は、携帯を奪い返す。

すぐに、何でもありません、と言う訂正文を送信した。


「ねぇ! 返して!!」

「いや、これ僕の携帯だから」

「神鳴に隠し事してるんでしょ! まだ全部見てないっ返して」

「なら、勝手にメール送らないって、約束できる?」

「わかった」


在過は、すでに半泣き状態の神鳴を見て、携帯を見せることに再度諦める。どうしてここまで執着するんだろうか? 見られて困る履歴やメールはないのだが、それでも驚くほどに迫られると見せることが怖くなってしまう。


「ねぇ~え、なんでこんな訂正文送るの!」

「関係ないのに、申し訳ないだろう」

「……このノウたりんって誰?」

「親友」

「女の子?」

「……男」

「いま言うの遅かった、絶対嘘。女の子なんだ」

「違うから。あぁ、もういいだろ返して」

「神鳴のこと好きじゃないの? この女がいいんでしょ? 神鳴より、やり取り多いもん」


急に泣き出してしまい、近くにあるクッションやぬいぐるみを投げつけてくる。

そんな姿が、妹が錯乱状態になった時と似ており、在過は冷静さを取り戻した。だめだ、この子は一人にしてはダメだ。そんな感情が溢れ、泣き出す神鳴を抱きしめる。


「落ち着いて。メールしている女性は職場の人だし、さっきの千里さんは結婚してお子さんもいるから。ノウたりんは、専門学生時代から一緒に作品作ってる漫画友達ってだけだから」


「ほんとに?」


「本当だって。よくメール見たらわかると思うけど、千里さんのメールなんて、お子さん出来たって最近連絡が来て、ちょうど誕生日も近かったらお祝も兼ねてただけ。ほとんどメールなんてしてないから」


「……その人と、もう連絡しないで」

「……わかった」

「好き」

「あぁ、僕も神鳴の事好きだよ」

「もっとギューってして」

「はいはい」

「そんな適当な感じ嫌! 本当に神鳴の事好きなの?」

「愛してるよ」

「えへへ」


在過は、否定せず神鳴を抱きしめて、耳元でささやく。

ハンカチで涙を拭ってあげると、ニコニコした表情で見つめてくる神鳴に対して――なんとかしてあげないと……そう感じていた。


「ねぇ…明日お互い休みなんだよね」

「そうだな」

「最後までは……その、まだできないけど。する?」

「ん? さっきのゲーム? いいけど」

「ちがーう。 触っても……いいよ」

「あ……あぁ」


神鳴は、泣いて目が真っ赤の状態で在過の手を胸に押し当てる。

パジャマの上からでも、弾力とやわらかい感触が伝わる。胸に触れられている状態で、神鳴は自分のバックから物を取り出す。


「これ……使う」

「なんで持ってんだよ」

「毎日使ってるから」


神鳴が取り出したのは、一般的な使用方法で言えば小型マッサージ機だろう。しかし、今の状態で渡してくると言う事は、当然、使用用途は別物。


二人はベットに横になり、部屋の電気を消して電気スタンドの明かりに切り替える。


「さっきまで、泣いてたくせに」

「うるさい!」


両手で神鳴の頬を引っ張り、覆いかぶさるように彼女を見つめる。このままの彼女ではダメだ、なんとかしてあげないと。そんな気持ちと一緒に、愛おしさもあった。


「ねぇ……」

「どうした?」

「首絞めてほしい」

「はいっ!?」

「欲しいんだろ?って言って、首絞めて」

「ドMだったのかよ」

「想像するだけで興奮する」

「はいはい」


言われたとおりに、できるだけ優しく首を絞める。吐息と一緒に甘い声が漏れ、神鳴の体が反応しているのがわかる。今までの恋愛の中で、彼女に対して首を絞める経験がない在過は、力加減がわからない。苦しくない程度に力をいれるが。


「もっと力入れて!」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫、息できないくらいの方が興奮する」

「なるほど」


そう言われても理解が追い付かない在過だが、また泣き出しても大変だからと言う理由で力を入れる。

傷つけないように、ちょっと息苦しい程度。この力加減で満足してもらえるのか不明だったが、神鳴の反応を意識しながら、力加減を変えていく。


「あぁぁもう最高! えへへ、支配されている感じで気持ちい」

「それはよかった」

「一人だとできないし」

「そりゃ、そうだろうな」

「前の彼氏は、やってくれなかった」

「そうなんだ……」


満足したのか、神鳴はギューっと力を込めて在過を抱きしめ、淡々と元カレの話を語りだす。

何を聞かされているんだと思う在過だが、妹と同じで精神状態が不安定の場合、否定せず話を聞いてあげることが一番と知っている。


しかし、在過とていい気分ではない。全く知らない元恋人の話を聞かされて、嫉妬感がないほうが異常ではないだろうか?


元恋人と過ごした日々、夜の生活のプレイ内容や理不尽に怒られたことなど。聞きたくもない情報が、次々と在過の脳内に記憶されてく。神鳴は、どんな気持ちでその話をしているのだろう。知れば知るほど、神鳴と言う女性の事が分からない。


そんな感情が、在過の思考を鈍らせる。


「なぁ、なんでその元カレと別れたんだ?」

「ん~神鳴の相手をしてくれなくて、遊びに行ってるのに一人でゲームばっかしてるし。別れるちょっと前からだけど、暴言とか暴力振るわれるようになったの」

「あぁ、DVってやつか」

「うん。でも、好きだったんだけど……連絡取れなくなって、仕事とかできないくらい落ち込んで休んじゃった」

「あぁ……そういう事か」


応援社員として派遣されたときに、よく体調不良で休む理由が元彼の原因だと知った在過。この時は、元彼に嫌悪感を抱き、なんで優しくしてやらないんだと思っていた。


「辛かったんだな。僕は神鳴のこと守りたいと思っているし、家族になれたらいいなと本気で考えてるよ」

「ほんと! えへへ、神鳴も在君のこと好き―」

「ありがとう」

「神鳴うさちゃんは、寂しいと死んじゃうからね」

「はいはい」


胸に顔をうずめる神鳴の頭を、優しく撫でながら眠りに落ちる。

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