第6話 「ママの決意」

通話アプリを通して聞いていた神鳴カンナの母親は、親指の爪か噛みながら震えていた。

何とかしなければ、この男から娘を引き離さなければいけない。


「親がいない? 借金と不倫までして、大切な体を自ら傷つける妹がいるなんて。神の加護を冒涜しているクソが」


神鳴の母親、篠崎雷華シノザキライカは自室の仏壇の前に飾る、娘の写真を見つめ願っていた。

大切に育て上げた娘が、まともに育っていない神の加護から外れた男に取られようとしている。


しかし、在過と恋人なる前の元彼に対して雷華ライカは失敗した。


「彼の対処には焦りすぎて失敗したが、今回は時間をかけてゆっくりと絶望してもらわないと」

「まぁ、焦る必要はないさ。ゆっくりやろう。何かあれば、言い聞かせればいいさ。私たちの言葉が絶対だろ?」

「えぇ、そうね」


雷華を後ろから抱きしめてささやく男性、篠崎大迦シノザキオオカ

神鳴の父親にして、妻である雷華と一緒に通話を聞いていた。


その表情は――無。


怒りを隠せない雷華と、表情を変えない大迦は、仏壇の幼い娘の写真を見つめながら通話から聞こえる在過の過去を聞いている。


篠崎家が加入してい団体の教えは、良くも悪くも絶対である。

「娘が不幸になる種は消しましょう」

「娘が幸せになるためなら、彼を捧げよう」

「娘が泣いてしまうなら、殺しましょう」

「娘が傷つくなら、陥れよう」

「「どうかお守りください。我が娘の幸せの為に」」


一人娘である神鳴は、両親の愛に守られている。

プライベートでも、仕事場でも娘を傷つけるなら容赦しない。

しかし、状況を把握しないで、相手を知らないで解決はできない。

神の教えは絶対であり、助言された事柄は完璧に遂行しなければならない。


だが、神鳴の両親は不足の事態に苛立ちのストレスが拭えない。

つい数ヶ月まで、付き合っていた恋人と別れることに成功したばかりだ。なのに・・・・・・なのに! どうして新しい恋人ができている? これは娘を守ることができるのか試練なのだろうか?


雷華は、荒い呼吸をしながら通話アプリの画面に視線を落とし睨み付ける。

ありえない、ありえない、ありえない、ありえない。

なぜ、こんな悪魔にでも魂を売ったような家庭環境に育った男に惚れてしまったのか?

答えはわかっている。失恋した娘の精神状態につけ込んで、あの在過と言う男の悪魔が微笑んでいるからだ。


「クソっ! あの男がもっと頭のいい行動をしていたら、娘も落ち込むことなく、この男と出逢うこともなかったのに」

「悔やんでもしかたない。所詮、まともな加護を受けていない人達だ。今回は静かに見守ってみよう」

「はぁ・・・・・・どうして神鳴はこんなにも不幸になってしまうのかしら。何度も何度も泣かされて、傷つけられて可愛そう。私が救わないと――」

「まぁ大丈夫だろう。何かあれば、絶対に私たちに報告してくれるんだから」

「そうね、どんなことも隠し事しないように言い聞かせているからね」

「正しい躾をされていない、彼が不憫でならないよ」


仏壇の上に置かれている、小さなジュエリーボックの上部にある蓋をスライドさせて開ける。

蓋を開けると、ガラス張りになって中が見えるようになっており、びっしりと詰まった虫達が蠢き、お互いを食い散らかしていた。さらに、虫達の下に一枚の写真が納められている。


マジックペンで綺麗に書かれた名前――――近藤在過コンドウトウカ





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