#7 研修と週末とシャワールームと。
翌日の朝九時から研修が始まった。初日である今日の研修は一山さんが講師役だった。
正式名称『男性の為の新しい日常復帰プラン』、もともとは十五年前の地球上から男性のほとんどが姿を消し世の中が大混乱になった事に端を発する。
遺伝子操作を受けていない、いわゆる『天然』の男性は最優先で身柄の保護と権利が保証されるべき対象であり、国家の宝。さらには財産である…そんな文言から始まるこのプランは三毛猫現象と呼ばれた出来事の混乱で男性の安全が脅かされたり、最悪の場合には性的に搾取されたり犯罪から保護する目的で始まったのだという。
極端な話だが、現在いる国家が信用出来ないのであれば他国に保護や亡命をする事も出来るという。もっとも亡命先が非人道的だったり独裁国家、政情不安であれば今より状況が悪くなる可能性もあるから慎重に考えるべきだろうけど…。
それから男性がいなくなってからの国内外での出来事やそれからの世界的な流れを学んだ。おそらくだけどこのテキストに記載されている事は世界的な共通認識…公的に記録されている事なのだろう。…だから他にも秘匿されている事や確認不十分な事、認めるには不都合な真実もあるだろう。
どこの所属だか忘れたが研修名目で僕を全国行脚させて自分の出世に利用してした人もいたぐらいだ。男を巡っての後ろ暗い何かもあるんじゃないか…、研修を受けながらふとそんな事を考える。
少し疑り深いかな…、だけどそんな勘ぐりもしたくなる。なんでそんな風に思ったのかは自分でも分からない。何か引っかかる事があっただろうか…。
「よし、今日はここまでにしようか…」
午後4時半過ぎ、一山さんがその一言で初日の研修を締めくくった。
「ありがとうございました」
「うん。佐久間君、いきなりだが明日は日曜日だから研修は休みだ。ゆっくり休むも良し、出かけるも良し、とにかく月曜日に元気に研修を受けてくれたらそれで良いからね」
「はい」
そんなやりとりをしながら研修をしていた視聴覚室を出た。そうか…、明日は休みか…。何をしようか…。ゴロゴロするのもなあ…、何かしたい事か。あるにはあるけど十五年経った世界ではどんな風になってるんだろう…。
□
「ん、免許?」
夕方、柔道場でご飯を食べながら美晴さんに現在の免許制度について聞いてみた。
「シュウはまだ十五だろ?免許は早くねーか、少なくとも十六にならねーと。車はそれでも無理だけどよ」
「あ、はい。でも二輪ならいけますか?あれなら十六歳から…」
「確かにとれますがそれでも十六歳からですわよ?
「あ、取得可能年齢はやはり変わってないんですね。実は僕は誕生日が今月来ますんでそれで十六になります。だから、そのタイミングで免許取れないかなと…」
「「「十六ッ!!」」」
そこにいた婦警さん達が一斉に声を上げた。
「イ、イケるよ…、十六ならイケるよ…」
「これならヤったとしても場合によっては…」
「結婚してればいくらでも…ねぇ?」
「さ、佐久間君、結婚は考えたりしてるの?」
「そうそう!十六歳になったらすぐにでも…とかさ」
じりっ、じりっ。なかやら婦警さんたが座ったままだけどにじり寄って来ている気がする。
「い、いえ。結婚とかはまだ全然考えてなくて…。でも結婚って女の人は十六、男は十八からじゃないんですか?」
「あー、それ法改正されたんだよ。少なくともより子供を産みやすい環境作りとか言ってさ。だから男も十六歳からOKなんだぜ」
「そうなんですか?」
「結婚した上で子供を産むと言うのも根強い価値観ですわ。だから出産期間を少しでも長くする為に男性の結婚可能年齢を引き下げたのですわ」
「ははあ…そんな事が…」
美晴さんと尚子さんが説明してくれた。でも、男性が圧倒的に少ない世の中だ、当然の流れなのかも知れない。子供が沢山生まれれば、例えわずかでも男性が増えるかもしれない。
「え?なぁにぃ?佐久間君はぁ結婚に興味あるのぉ?」
「意外〜。もしかして結婚願望強いの?」
「もうすぐ十六なんでしょ?じゃあさ、試しにお姉さんと付き合ってみない〜?」
「それならアタシの部屋おいでよ。独身寮じゃないからさあ、憧れの男連れ込み…じゃなかった招待しても良いんだよねえ」
ま、まずい。なんだろう、逃げられる感じが全くしない。これこそ警察の
「おい、お前ら…」
署長さんの低い声が響いた。ちょっと怒っているっぽい。
「立場を悪用するなっつってんだろうがッ!!少年が今夜のうちに荷物まとめていなくなっちまうレベルだぞ!」
昨日に続き再び署長さんが一喝、それまで場を支配していた妙な
い、今だ!逃げるなら今だ!
「ぼ、僕、お風呂行ってきます!!」
お風呂道具を引っ掴んで僕は急いでその場を離れる。
「あっ!シュ、シュウ!俺も行くよ!」
「わ、私も!一緒に入りますわ!!」
「お前らは警護だろうがッ!!」
署長さん、いろいろ苦労してるんだな…。
□
たたたたっ!
柔道場から小走りで僕はシャワー室前にやってきた。逃走というのはいかにそれだけに集中するか、待てと言われて待つようでは成功なんてする訳ない。あらゆる物をかなぐり捨ててひたすら逃げに徹するのだ。
警護は美晴さんと尚子さん、当然シャワー室の場所は知っているから後からやってくるだろう。
とりあえずシャワーしちゃおう。お風呂道具もあるんだし。がちゃっ、僕は走ってきた勢いそのままにドアを開け飛び込むようにシャワー室に入った。
「きゃっ!!?」
ひ、人がいたっ!!
ドアをノックするのを忘れシャワー室に入った為、シャワー室を使っている人の有無を確認していなかった。
僕は女性が使用中のシャワー室に乱入するというとんでもない事をやってしまったのだった。
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