三毛猫現象 〜男の割合が三万人に一人になった世界〜

ミコガミヒデカズ

第1章 帰還編in病院

#1 はじまり。


「う…」


 僕は目を覚ました。


「ここは…?」


 体を起こし辺りを見回す。見覚えがある押しボタン式信号のある交差点。自宅まで歩いて十分くらいのところか…。そこに誰かが近づいてくる気配がし「もしもーし、分かりますかー?どうしましたー?」


 振り向くと近くの交番から出てきたのだろう。警察官、女性だから婦警さんか…、声をかけながら歩いてきた。


 目と目が合う。かなり若い人だ。二十歳そこそこだろうか?


「ッ!!?」


 なんだろう、急に婦警さんが息を飲んで黙り込んだ。


「あ、はい。気付いたらここに倒れていて…。今、目を覚ましたところなんです」


「お、お名前はッ!ご自分のお名前は言えますか?」


「佐久間修(さくましゅう)です」


 僕は自分の名を名乗った。


「こんな所ではナンですッ、落ち着いて話をする事も出来ませんから交番へどうぞ!」


 むしろ婦警さん落ち着いて下さいと思いながらも、彼女が手で示した交番に向かう事にした。



「山下です、お話を伺いますね」


 交番の中で年期の入ったパイプ椅子に座って話をする事になった。室内の壁掛け時計を見れば午後十時過ぎを示している。


「すいません、こんなものしか無いんですが…」


 僕は高校に入学したばかりの十五歳なので本人確認資料、いわゆる免許証みたいな物は持っていない。

 そこで生徒手帳くらいしか持ってないのでポケットから取り出して婦警さんに手渡した。


「確認しますね…。佐久間修さん、河越北条かわごえほうじょう高校普通科の一年生…。え!?」


 婦警さんは驚きの声を上げ椅子から立ち上がった。


「さ、佐久間さん!これは廃校になった男子高の生徒手帳じゃないですか?なぜあなたがこれを持っているんですかッ!?」


「えっ!?ど、どういう事ですか?」


「わ、私も埼玉生まれの埼玉育ち、しかも地元民です。数年前まで私も高校生でした!だから、高校受験の時は色々と学校案内は見ましたし、河越北条高校って男子高ですよね?」


「は、はい。男子高です」


「それがおかしいんです!だって男子高なんて日本のどこを探しても…、いいえ!世界中どこを探したってありませんよ!」


「ええっ!ど、どうして!?」


「だって、自然妊娠で男性が生まれるのって何万人に一人とかって確率なんですよ!だから人工授精とかを駆使してなんとか男性を誕生させて人口をなんとか維持しているのに…」


「そ、そんな…」


 そんな話は初耳だ、しかも学校が廃校だって?じゃ、じゃあ僕の高校生活はどうなるんだ?い、いや、それより男性が生まれないって…。…そ、それじゃまるで…。


「それに佐久間さんは『天然』の男性ですよね?人工授精で誕生した訳ではない…」


「は、はい。そうだと思います…」


「や、やっぱり…。そうだと思いました。だとしたら尚更!佐久間さんは男女共学の高校に通っている筈です、それこそ『ウチの学校に来ませんか?』って早い時期に県内外から有名校がスカウトに来る筈ですよ!それも好条件で!男子生徒…、しかも『天然』の…。一人志願が現れたって事だけでその学校の人気は大違いですから…」


 なんだろう、『天然』って響き…。僕はウナギかマイタケか、その二文字が付くだけで値段が段違いみたいな…。


「と、とにかくっ!一度本署へと連絡させて下さい!佐久間さん、あなたは間違いなく重要保護対象です」


 そう言うと婦警さんは慌てた様子で電話をかけはじめた。

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