第5話


 ディアンは、サンディの王子様でした。


 ディアンがいると嬉しくなって、顔が熱くなって胸が高鳴るのでした。


 義兄であるディアンへの恋心を自覚したサンディが、毎日を楽しくも、少しだけ苦しく感じながら暮らしていた、ある日のこと。


 ディアンが床にひざまずいて、白薔薇とタイム、スノードロップ、アイビー、ラベンダーの花を束にした清楚で可憐なブーケをサンディへ差し出して、真剣な顔で言いました。


「サンディ。僕の誕生日に、君と一つに・・・なりたい・・・・んだ。一つに・・・なる・・のは、怖いかもしれない。でも、僕は君と・・・」


 切ない顔でこいねがうディアンの思わぬ言葉に、サンディはディアンも自分のことを想っていてくれて……実は両想いだったのだと、飛び跳ねたい程に嬉しくなりました。


 白い薔薇の花言葉は……『純潔』、『わたしはあなたに相応しい』『心からの尊敬』、『相思相愛』、などの意味があるのです。


 タイムの花言葉は……『活力』、『勇気』などの意味があるのです。


 スノードロップの花言葉は……『希望』、『慰め』、などの意味があるのです。


 アイビーの花言葉は……『永遠の愛』、『結婚』、『友情』、『不滅』、『誠実』、などの意味があるのです。


 ラベンダーの花言葉は……『沈黙』、『あなたを待っています』、『私に答えてください』、『期待』、などの意味があるのです。


 それらの花を束ねたのブーケの意味は――――


「断ってくれても構わない。その場合は……お願いだから、君から・・・このブーケを僕に・・贈って・・・ほしいんだ」


 サンディは、とても恥ずかくて堪りませんでしたが、白を基調に紫の花の散りばめられた優しい香りのブーケを受け取り、ディアンの言葉に頬を染めてそっと頷きました。


「ありがとう、愛しているよサンディ。僕の……僕だけの、唯一無二・・・・


 ディアンは、それはそれはとろけるような嬉しそうな顔でサンディへと微笑むのでした。


 父親も知れず、薬物中毒の母親に育児放棄ネグレクトを受け、児童養護施設ではみんなに煙たがられ、虐められて、段々と自分にはなんの価値も無い、と感じるようになって行って。卑屈になって、酷く自棄やけになってこの家に来たサンディ。


 そんな自分に、『僕だけの唯一無二』だと言ってくれた大好きなディアン。


 サンディはそんなディアンのことが、増々好きになったのです。


 あぁ、ディアンの為ならあたし、心臓を捧げても構わないわ! 愛してる! と。


 そして、ドキドキしながら迎えたディアンの誕生日の夜。


 バースデイパーティーが終わった後、サンディは清潔なベッドの上に横たわって、夢見心地でとても幸せな気分を味わい――――


 ディアンと一つに・・・なった・・・のです。


 それからのサンディはディアンと片時も離れず、その心臓が鼓動を刻むのを止めるまで、ずっとずっと生涯一緒にいました。


「……ああ、サンディ。愛しているよ、ありがとう。僕の・・唯一無二・・・・……」


 ディアンはいつも、サンディの心臓の上に手を置いて、愛惜しげに呟くのでした。




 ――おしまい――

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