ハートを捧げたシンデレラ

月白ヤトヒコ

第1話


 これは、むかしむかし――――


 という程でもなく、極最近かもしれないし、今から未来で起こる出来事かもしれないお話です。


 あるところに、サンディという小さな女の子が住んでいました。


 サンディの父親は誰だかわからず、サンディのママは家出同然に住んでいた家を、町を飛び出して、一人でサンディを育てることを決めたのでした。


 サンディのママはサンディを一人で産んでから、一生懸命働きました。


 母一人、子一人で生きて行くのは、とっても大変なことでした。


 一人で家を飛び出したことを、後悔した日もあったことでしょう。


 小さなサンディに苛立ちをぶつけて、自己嫌悪をした日もあったことでしょう。


 それでもサンディを連れて、二人で身を寄せ合って生きて来たのです。


 ――――けれど、そんなある日のことでした。


 サンディのママは、これまでの無理が祟ったのか、病気になってしまいました。


 ママはその病気の苦しみを和らげる為に、たくさんの薬を必要としました。


 幾ら薬を使っても、苦しくなくなるのは短い時間だけ。苦痛を和らげるには、サンディのママの稼ぎでは足りないのでした。


 サンディのママはやがて、高価な薬の為に、これまで以上に無理をするようになって行きました。


 毎日毎日、夜遅くまでお仕事。


 サンディは病気のママがとても苦しんでいるのを見ていたので、お家でいい子にして、一人でお留守番をするようになりました。


「ママはびょうきだから、あたしはいいこでおるすばんしてるの」


 と、どんなに寂しくて心細くても、ママの為に一人でお留守番を我慢します。


 毎日のごはんが、シリアルだけになっても。


 明るいうちに、ママが帰って来なくなっても。


 数日間、ママの姿を見ることがなくなっても。


 お家の中が、ゴミで一杯になっても。


 一週間を、たったの食パン三枚ぽっちで過ごすことになっても。


 ママが帰って来なくて、お腹が空いても。


 家の中に、カビたパンしか無くなっても。


 カビたパンを食べて、お腹を壊して苦しんでも。


 冷蔵庫の中身が、空っぽになっても。


 食べられる物が、家の中になに一つ無くなっても。


 お腹が空いて、倒れてしまっても。


 倒れても、ママが来てくれなくても。


 自分が栄養失調で入院してしまっても。


 元気になって、退院が迫り――――


 とうとう、児童相談所に保護されてしまっても。


 ママが、施設に入院したと聞かされても。


 サンディは、ママの病気が早く治ることを願って、たくさんたくさん我慢しました。


 ママの他に身寄りの無いサンディは、児童相談所から児童養護施設に入れられることになっても。


 そして、あれこれ検査を受け、健康だと判断されたサンディは、本格的に児童養護施設で暮らすことになりました。


「いいこにしてたら、びょうきのなおったママがむかえにきてくれるの」

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