魂恋 ~たまこい。好きな男の娘に、献身的に尽くす男の話~

苦虫うさる

第1話 出会い

 1.


 初めてえにしに会ったのは、里海さとみが十六歳の時だった。


 里海よりも五歳年下の縁は、隣りに座る母親によく似た美しい顔立ちをしていた。

 余りの驚きに口もきけずに、その魂を吹き込まれた人形のような姿に、里海はただ目を奪われた。

 縁は不機嫌そうな、険しい眼差しで里海の顔を睨む。

 黒目の割合が多い瞳は、光線の加減で深い青みを帯びて見える不思議な色合いをしていた。

 その瞳が真っ直ぐに自分を捕らえた瞬間、自分は囚われたのだとわかった。


 この先、一生、この瞳の持ち主を求め続けるだろう。


 心の中に生まれたその思いは予感でも予想でもなかった。動かすことの出来ない確信だった。



 2.


 縁に出会う前まで、里海は特に疑問を持つことなく、自分は異性のみに恋をするのだと思っていた。


 生々しい男らしさとは無縁の癖のない端整な容貌と、人に無理なく合わせることが出来る一見鷹揚で穏やかな人柄。

 押しつけがましさのない性格は大抵の人間からは好かれ、少なくない数の女性から好意を寄せられた。

 ひとつの物事に執着を持つことがない里海は、他人から求められることには気が向けば応え、自分の気持ちがのらなければ相手の気持ちを刺激しないように離れた。


 人付き合い、人の中で生きていくということは、例えて言うならゲームのようなもので、里海は子供の時から大人相手であってもそのゲームをすることに困難を感じたことはなかった。

 むしろ生きていく、ということはこれほど簡単でいいのか、と思ったほどだ。他人がこのゲームのやり方に悩み、苦悩する姿をどこか皮肉な眼差しで見ていた。


 しかし縁と会ってからは。

 自分の心が自分の思い通りにならないことが、これほど苦しいことなのかと思い知らされた。

 どこにいても何をしていても、縁のことが頭に浮かんだ。

 何とかしなければならない、と思い、何人かの女性、同級生や年上の大人の女性とも付き合い、時には同時に複数の相手と関係を持ったこともあった。

 だがどれほど多くの人間を相手にしても、縁の姿が心から去ることはなかった。


 女性たちの相手をしているとき、相手が縁だったらと夢想してしまう。

 ベッドの上で乱れる縁の姿が思い浮かんだとき、自分の体が普段の自分からは想像もつかない荒々しく狂暴な獣に乗っ取られたように感じた。


 その時に気付いた。

 どうあってももう一度縁に会わなければならない。

 このままでは、自分が自分でないものになってしまう、と。

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