メタ爺

 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 雪深い山の中、どうにか扉をこじ開けて外に出ると、庭先に小高く雪が積もっておりました。

 こころなしか、その雪山が光っているようです。

 おじいさんは扉を閉め、家の中に入り、おばあさんに「雪の中でなにかが光っている」と言いました。

 おばあさんは「ならば掘ってみたらどうです」と返します。

 おじいさんは「いやいや。中から何か出てきても困る。竹取さんとこみたいになったらどうする」と言いました。

 おばあさんはためいきをついて、それ以上なにも言いませんでした。


 春になり、おじいさんが川で釣りをしていると、大きな梅がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。

 おじいさんは家に帰り、おばあさんに「川から梅が流れてきた」と言いました。

 おばあさんは「持って帰って来てみたらどうです」と返します。

 おじいさんは「いやいや。中から何か出てきても困る。吉備さんとこみたいになったらどうする」と言いました。

 おばあさんはためいきをついて、それ以上なにも言いませんでした。


 夏になり、おじいさんは山を下って海に行きました。

 子供にいじめられている亀がいました。

 おじいさんは家に帰り、おばあさんに「亀がいじめられていた」と言いました。

 おばあさんは「助けてあげたらよかったのに」と言いました。

 おじいさんは「いやいや。海の中に連れていかれても困る。浦島さんとこみたいになったらどうする」と言いました。

 おばあさんはためいきをついて、それ以上なにも言いませんでした。


 秋になり、おばあさんが病で臥せってしまいました。

「寝ていますから、一人にしてください」と言いました。

 おじいさんは首をふり、「そんなこと許さん」とずっとおばあさんの傍らを離れることをしませんでした。

 おばあさんははたることも出来ず、箪笥の中の羽衣を出す訳にもいかず、ほとほと困り果てました。

 結局、おじいさんが亡くなるまで、おばあさんはおじいさんの傍でひっそり静かにそれなりに幸せに暮らしたそうです。

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