最近のマク〇ナルドは、注文する前に冒険者になる必要があるらしい

谷川人鳥

第1部

第1話 「太陽って二つあったっけ?」



 ヤりてぇ。

 住所不定無職である俺の頭の中にあったのは、たったそれだけだった。

 だけど勘違いはしないで欲しい。

 たしかに今の俺は社会の最底辺にいると言っても差し支えないが、それは俺のマジヤベェ才能に世界がまだ気付いてないだけ。

 このクソつまんねえ社会の奴隷になるつもりは一切ない。

 俺のマジ半端ないセンスがあれば、すぐにモテモテのウハウハヤリまくりハーレムをつくれるはずだ。

 そうさ。

 この俺が本気を出せば一発だぜ。


「ねぇ、そこの姉ちゃん? 俺とちょっと、お茶しない?」

「……え? 私ですか? ごめんなさい。遺伝子的に無理です」

「あ、そっすよね。すいません。変な事言って」

「はい。二度とこんな真似しないで下さい」


 そうさ。

 社会はクソだ。

 俺というマジ神な逸材にどいつもこいつも気づきやしない。

 先見のなんちゃらのないポンコツばっかりだ。

 だから俺が就職できないのも、女をナンパしても一瞬で失敗しちまうのも、全部俺の責任じゃない。

 まあ、今の女は本気でナンパするつもりとかなかったけどな。

 顔も地味だったし、胸も小さい。

 だからこの目から流れてるのはただの汗だ。

 別に悔しくなんてないし、惨めだとも思っちゃいない。

 ほんとだよ。ほんとだからね。


「……お?」


 そのあまりの才能に神に嫉妬されている俺は、ふと濡れた道端の隅に鈍く輝くものを見つける。

 かねか?

 ああ間違いない。あれは金だ。

 ただ歩いてるだけで金が手に入るなんてやっぱり俺は神に愛されてるな。

 今日も絶好調だぜ。

 本能的に金銭の匂いを嗅ぎつけた俺は、クソったれな陽光を反射させる硬質な物体に手を伸ばす。


「……なんだこりゃ」


 しかしやはり世界はクソで、神はどうしようもないファッキン野郎だった。

 俺の拾った普通に考えて五百円玉、最悪でも百円玉と思われた硬貨には何の数字も刻まれていない。

 ふざんけなハゲ。

 何の価値もない黄金こがね色の硬貨を苛立ち混じり握り潰そうとするが、筋力が足りないせいで当然そんなことはできず、反対に指を痛めてしまう。

 


「ファッキューゴッド。てめぇの創った世界はマジゴミカスだな。もうちっとマシな世界創れや」

 

 

 日本語の代わりにワケのわからない文字かどうかすら判別不明なミミズが走った硬貨を、俺は思いっ切り指で上空に弾く。

 住所不定。

 高校を中退してからフリーターを続け現在は無職。

 だからといって危機感もやる気もない。

 ただ今日もこうやって適当な文句を垂れながら、目的もなく歩き彷徨うだけだ。



 ――カランッ。



 俺が指で弾き飛ばした資源の無駄遣いメダルが地面に落ちたのか、やけに甲高い音が周囲に響き渡った。

 しかしなぜかその音が、異常なまでにゆっくりに聞こえる。

 空気が波打ち、まるで世界が再構築されていくような感覚。

 俺の天才的な頭脳が普段フルに活用されている反動か、急に眩暈までしてきやがる。

 

 

 ――カチッ。



 すると今度はスイッチが切り返られたような音が耳元でこだまする。

 一瞬地面がグニャリと歪んだ気がしたが、そんなもんはもちろん気のせい。

 やっと眩暈も収まってきて、目頭を擦れば先ほどとほとんど同じ景色が見えるようになった。


「……あれ?」


 いつもの調子を取り戻した俺はなんとなく空を見上げてみる。

 瞳をくらませようとする強い日光。

 俺のナイスな髪型を崩さんとする風よりも、俺は宙に浮かぶ煌めく丸い物体が今はなぜか気になった。



「太陽って……二つあったっけ?」



 視線の先にある太陽は、仲でも良いのか隣り合って二つ分。

 もともと太陽が二つだったか一つだったか、俺は文系なのでよく思い出せない。

 

「まあ、どうでもいいか」


 しかし別に存在自体は珍しくもなんともない太陽の数への興味をあっという間に失った俺は、また行く先も決めずに歩き出す。

 そういえばさっき捨てたばかりの硬貨モドキもどこかに消えてしまったが、それこそマジでどうでもいいことだった。



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