第三部A面 空の繋がった日6
ヒカルのトークの牽引力は相変わらず凄いよなぁ。
あんな見たこともない菜穂の一面を引き出しているんだから。
『もう菜穂ってば神経質すぎるよ。もっとフリーダムに、ね?』
『部長が自由すぎるんです』
『その部長ってのはやめて欲しいかな。ボクのことはヒカルちゃんでよろしく』
『……ヒカルちゃん……なんだか違和感があります』
『菜穂ってばなんか「後輩」ってイメージがあるもんね』
『同い年です。……それとも「ヒカル先輩」とでもお呼びすればいいんですか?』
『あぁボク“百合”の趣味はないから』
『どうしてそんな話になるんですか!』
普段は自己主張なんてできない子なのに、完全にヒカルのペースに嵌っていた。
演劇部の頃から、ヒカルは場の雰囲気というか空気を創るのがとても上手かった。
その雰囲気に振り回される俺としてはあまり認めたくはないのだが、あれは一種のカリスマ性とも言えるだろう。
それは放送という畑に来ても健在だった。
っと、つかみはこれくらいで良いだろう。
俺はカンペに「曲いけ」と書いて2人に見せた。
『ヒカルちゃん、指示が出てます。えっと……それではここで一曲聞いて下さい』
『なんと今日は軽音部が生演奏を披露してくれます。アスカ~』
なぜか気持ち上づった声でヒカルが呼ぶと、
『ア○タツ~、みたいな感じで呼ばないで下さい!』
森本さんは手にしたマイクで抗議した。
ああ、いまのはものまねだったのか。
『そんなことより明日香、曲紹介よろしく』
『えっと……みなさんこんにちは。軽音楽部です……で、いいのかな? と、とりあえず一曲聞いて下さい。浦町高校軽音部で「この風に乗せて」です』
森本さんが言い終わると同時に一年生ドラマーがスティックでリズムを刻む。
軽音部による演奏が始まった。
曲紹介はグダグダだったけど、演奏するときになるとみんなキリリとしていた。
穏やかだけど明るいテンポの曲。
森本さんの歌声も入部したばかりとは思えないくらいマッチしていた。
『My voice on the winnd この声が 君に、君に届きますように
ボクはここで歌い続ける 例え今は無理でも』
『My voice on the winnd この声が 君に、君に届いたなら
放課後にはここまでおいで やさしい風が吹くこの丘に』
その中で一番驚いたのは光司郎の変わりようだった。
あの自己主張の塊みたいなヤツが、ギターを弾きながらバックコーラスをしていた。
光司郎の歌声を聴いたのは軽音部に入ってからはこれが初めてだった。
しかも明日香の歌声の邪魔をすることなく上手く重ね合わせている。
あれほど激しい曲ばかり弾いていたヤツが、こんなやさしいメロディーの曲を弾いているということでさえ驚きなのに。
(成長してるってことか……いい歌じゃないか)
この声が君に届きますように……か。
なあ……この町に住む繋がりを失ったみんな、
この歌はちゃんと聞こえているか?
ヒカルたちの声はちゃんと届いているか?
みんなの思いは……ちゃんと伝わっているか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます