第三部A面 空の繋がった日5
「まさかこんな形で日の目を見ることになるなんてな……」
俺は長テーブルの上に置かれたミキサー盤の縁を指でなぞった。
みんなの協力もあって割とまともな放送ステージができあがっていた。
長テーブルを運んで来て二つくっつけてできたデスク。
その上にはミキサー盤とマイクスタンドが二本置かれている。
そのデスクの前には、人数分のパイプ椅子が観客席を見立てて並べられていた。
両脇では照明代わりのスポットライト二本が煌々と光を炊いている。
スポットライトとは言っても凸レンズではなくフレネルを使っているので光は収縮されず、ぼんやりとちょうどいい明るさになっていた。
体育館から拝借してきて須藤がセッティングしたモノだ。
「意外と様になるもんだな。放送ブースに見えなくもない」
隣にやって来た須藤が話しかけてきた。
「体育祭の野外テントでやるのと仕組みは同じだからな。大して難しくはない。問題は照明だったんだけど……そこはお前が上手くやってくれたからな」
「CL(シーリングライト)は得意なんでね。それにやっぱお前の手際のお陰だ」
「指示出しただけじゃここまでのモノはできないよ……」
ここにいるのは全部で13人。
アイヴィーと川村と新谷さんと、話を聞いてお目付役を買って出てくれた珠恵生徒会長はすでに観客席に着いていて4人で話をしていた。
今回、学校側への手配などは会長たちがやってくれた。
学校側としてはこの事態にもどうすることもできないので、この放送のことは見て見ない振りをするということで落ち着いたらしい。
しかしほんの三十分で許可を取り付けることができたのは珠恵会長の手腕だろう。
森本さんを含めた軽音部メンバーは演奏の打ち合わせをしていた。
軽音部は途中で何曲かはさむ予定になっている。
ボーカルは森本さんがやるだそうだ。
ヒカルと菜穂は離れた場所で放送の打ち合わせをしていた。
軽音部に入った森本に代わり、菜穂がアシスタントを務めることになっていた。
俺がやればいいという話もあったのだけど、音響や構成の方に専念したかったので今回は菜穂にお願いしたのだ。
さっきのことを思い出すと断られるんじゃないかと思ったけど、菜穂は二つ返事で意外とすんなりと引き受けてくれた。
どうやら須藤が影で菜穂の背中を押してくれたようだ。
みんなそれぞれにより良い放送にしようと頑張ってくれている。
「そしてみんなのやる気を引きだしてるのはあいつだ」
俺は笑っているヒカルの方を見つめた。
「あいつが声を届けようって言い出したとき、もっと重苦しい雰囲気のモノになると思ってた。ところが蓋を開けてみたらこのお祭り気分だ。こんな状況なのに、みんな文化祭前日のような感じで楽しんでる。こんな空気を作れるのはヒカルだけだ」
「それがうちの部長様の魅力ってことだろ」
須藤がニカッと笑った。俺の口元も弛む。
俺たちには逆立ちしたってできない芸当が当たり前のようにできるヒカル。
羨ましいと思うときはあるけど、彼女のようになりたいとは思わない。
ヒカルはヒカルであり、俺は俺だからだ。
きっと誰しも一長一短はあるんだ。
だからこそ、そんな個性を奪い、人間全体で一つの意識を共有することでいつもどこでも繋がろうとしているヤツらを俺は認めない。
俺はヒカルたちのもとへと歩み寄った。
「そろそろ始めよう。緊急ボタンのスイッチは入れてある。あとはマイクボリュームを上げるだけだ。そうすれば、お前の声はこの街中に響き渡る」
「いや~なんか緊張するね~。この前のは不可抗力みたいなもんだったし」
「わ、私の声が街中に……えっと……その……頑張ります」
言うほど緊張しているようには見えないヒカル。
逆に緊張しまくってるのが良くわかる菜穂。
そんな2人のギャップが可笑しかった。
そしてヒカルはみんなに向かって号令を出した。
「さぁみんな、ボクらの放送を始めよう。合い言葉は!」
「「「 GOO♪ラジオらす! 」」」
屋上に13人の声が重なって響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます