第二部B面 ギターとお化けとお抹茶3

 この街で光司郎くんが行きそうな場所を巡ります。

 校門前、公園、レンタルショップ前。

 港近くの踏切脇にある石灯籠の近くなど。

 しかし光司郎くんの姿は見つけられませんでした。

 私は残る忠海駅の駅前広場へと向かいました。

 辿り着くとすぐに、光司郎くんの歌声が聞こえてきました。

 彼の姿を見つけたとき、彼の歌を聴いている人の存在に気付きました。

 白い服を着た小学校5、6年生ぐらいの女の子が『一人だけ』立っていました。

 彼の歌を聴いている人は『他には誰もいません』。

 学校で歌っていた時と同じで、その子以外の行き交う人達は気にした様子もなく彼の前を通り過ぎていきます。

 この町で、観客が一人でもいてくれるだけマシと考えるべきなのでしょう。

 その女の子は歌声にあわせて楽しそうに身体を揺らしていました。

 まだあんな子もいるんだ……。

 そう思うとこっちまで嬉しくなってくる。

 そんなことを考えているとその子と目が合いました。

 白い服の女の子はトコトコと私のほうへと駆け寄ってきました。

「こんにちは」

「え、あ、こんにちは」

 反射的に返事をすると、その女の子はニコッと微笑みました。

 初対面のはずなのに、どこか安心できるような笑顔。

 なんだか不思議な子です。

「わたしアイヴィー。お姉さんは?」

「あっ、森本明日香っていいます。外国生まれ?」

「ううん。わたしはこの町に生まれて、この町で育まれてきたんだよ」

 言い回しが気になりまづが、どうやら見た目通り日本人で間違いないみたいです。

 だとすると『あいびー』ってどんな字を書くのでしょうか。

「そう言えばアイビーって名前の花があったような……」

「そうなの? あの人が花の名前をつけるとは思えないんだけどなぁ……そんなガラじゃないし、それに適当につけたっぽかったから」

 やっぱり不思議な子です。

 あの人というのは親御さんだとして、命名に立ち会ったかの様な口ぶりです。

 普通、自分の名前が付いた瞬間を憶えているモノでしょうか?

 それになんだか人間味がない気がします。

 なんでしょう……キツネに化かされた感じというか。

 あっ、そういえば、唯一の観客がこっちに来たというのに、光司郎くんは気付いた様子もなく歌い続けています。

 視線を動かしさえしませんでした。もしかしてこの子……。

「光司郎くんには見えてないの?」

「うん。そうみたい」

 困惑する私とは裏腹にアイヴィーちゃんはひどくあっさりと頷きました。

「もしかして……幽霊……なんですか?」

「う~ら~め~し~や~」

 両手を垂れての幽霊ポーズ。

 その仕草が子供っぽくてかわいかったので、思わず吹き出してしまいました。

 こんなカワイイ幽霊なら大歓迎かも……。

 私はポケットの中からキャンディーを取り出すとその子に差し出しました。

「わ~い、ってハロウィンじゃないよ! イタズラなんてしないもん!」

「あ、ごめんなさい。つい……」

 アイビーちゃんは頬を膨らませましたが、フッと真顔になりました。。

「わたしは幽霊とは違うけど……」

 彼女はそう言いながら光司郎くんのほうを指さしました。

「あそこには“あまりよくないもの”がいるよ?」

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