第一部 ある少女の独白3

【ある少女の独白3】


 昨日……高校生ぐらいのお兄さんとお姉さんが私の病室にやってきました。

 看護婦さんの話によれば、お姉さんは看護婦さんの妹で夏樹さん。

 お兄さんは夏樹さんの幼馴染みで誠一さんというらしいです。

 お姉さんはあの看護婦さんの妹とは思えないほどしっかり者そうでした。

 お兄さんは傷つけた私を気遣ってくれるぐらい優しい人でした。

 私が諦めてからこんな人達に巡り合わせるなんて……神様はイジワルです。

 ……わかってます。この三人が特別だってことは。

 世界は依然として“あの絵”のように変わりません。

 病院の途中に掛けられた絵『ラベンダー』。

 二人はあの絵が大好きだと言っていました。

 あの絵から病気と闘うパワーをもらったと言っていました。

 だけど、私はあの絵が嫌いです。

 絵画のラベンダーは風に葉を揺らすこともなければ、

 刻のうつろいにその花びらを散らすこともありません。

 まるで変わらないモノそのものみたいじゃないです。

 ……そう言えば、二人が変なことを言っていた。

『僕達たちあのラベンダーを見るたびに想像していたんだ。夏の青空の下で紫色の花びらをそよがせている……そんなラベンダーのある風景をね』

 あの絵を通して本物のラベンダーを想像していた?

 ……無理です。私にはできません。

 私にはもう楽しいことを想像することなんてできないんです。

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