第4話


 あぁ……頷いて、くれた。


「そうねぇ……とりあえずは、学園で一番の健康優良児でも捕まえることにするわ」

「学園一の健康優良児と言うと、平民の特待生だと思います。確か、この前流行った風邪で唯一、症状の一つも出なかったお嬢さんだとか」

「ああ、あの平民の子ね。まぁ、どこぞの家の庶子として、それなりの家の養女にでもすれば大丈夫ね。あの子、努力家だし、一応下級貴族くらいのマナーは既に身に付けていた筈。側妃としても問題無い程度には持って行けそうだわ。正妃は別に添えるとして。でも……本人の意向を無視するのは、本意じゃないのよねぇ。無理矢理は嫌いだもの。う~ん、わたしに彼女、落とせるかしら?」

「まあ、王太子・・・殿下・・は、その口調と仕種とをどうにかすれば、顔と身分は超一級品ですからね。男らしく・・・・迫ってみれば、割とイケるんじゃないですか?」


 婚約者がわたし・・・を見詰める。


「あら、辛辣だこと。この口調はもう仕方ないわ。だってうち、父以外はほとんど女性ばかりなんだもの。移っちゃったのよ。父も諦めているし」


 一応、対外的にはちゃんと作った口調で話しているから、わたしが女言葉で話すことを知る人自体は、割と少ないのだけど。


「そうですね。というか、実は今まで聞けなかったのですが、殿下の嗜好はどちらで?」


 どちら、って……これは多分、わたしの好みを聞かれているのよね?


「あらあら、イジワルな質問ね。でも、いいわ。答えてあ・げ・る。ふふっ♪あのね、わたし……ちゃんと女の子が好きよ♡」


 そう、わたしは女の子・・・が好きなの。


「それはようございました」

「それで、お返事は?」

「そうですね――――実はですね、殿下」


 婚約者が声を潜め、わたしの目をじっと見詰める。


「なぁに?」

「愛人を認めてもいいと思っているくらいには、わたくしはあなたのことを愛しておりますよ?」


 にっこりと、綺麗な笑顔で言った。


「あなたの方がわたくしより女性らしい言葉遣いでも、あなたの方が女性らしい仕種をしても、あなたのことをお慕いしています」

「っ……」

「あら? どうされましたか? お顔がいきなり真っ赤になりましたよ? 殿下」

「なにっ、この不意打ちはっ……ズルいじゃない」


 顔が熱くなって行くのがわかる。


「ふふっ、ズルいどころか、とても酷い提案をわたくしにして来たのは殿下の方じゃありませんか?」

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