第10話


『いや、そんな心配しなくても……』

『だってアンタ、昔っから、肝心なとこでドジるんだもん。あのね、忘れてるようだから言っとくけど。魑魅ちみ魍魎もうりょう権謀けんぼう術数じゅっすう渦巻く王宮ここじゃ、一度別れたら下手したら二度と会えないってことなんかざらにあるよ? 現にうちの離宮、あの母親クソアマの癇癪で人の入れ替わり凄く激しいし。さて、何人が生きてうちの離宮を去れたことやら? って感じ』

『お、脅かすなよ・・・』


 途轍とてつもなく不安になって来たっ!?!?


『あの、さ・・・やっぱ、一緒にいてくれないか? ねーちゃん~っ!!』


 見栄や虚勢なんて張ってられるかっ!?


『アンタと・・・って言うか、尊い美ショタなシエロたんと一緒にいるのは大歓迎♪なんだけど、それだとシナリオ通りに行かなくなって、不確定要素が多くなりそうで・・・それはそれで非っ常~~に不安なのよねぇ・・・』


 不確定要素とやらに曇るねーちゃんの表情。


『そんなこと言うなよっ、頼むよねーちゃん! 俺を見捨てないでくれっ!?』

『いや、冗談じゃなくてさ。ここはヤンデレ御用達レーベルの鬼畜BLゲームの世界だし。そこそこなデッドエンドとバッドエンドが散りばめられていて、ある程度はシナリオ通りに進まないと・・・最悪、あたしも死ぬかもなのよ』

『っく……それなら、我慢するっ!? だが、絶対に見捨てないでくださいっ!?』

『はいはい。とりあえずはお互いに協力して、シエロたんの十八歳の誕生日まで生き抜くことを目標にしましょうか』


 あと十二年っ!? 長い道のりだぜっ!!


『絶対、絶対だぞねーちゃんっ!!!!』

『うん、約束ね』


 と、見た目美幼女(中身ねーちゃんの女装ショタ)がにっこりと差し出した小指に小指を絡めた。


 それから、俺とねーちゃんは約束の十二年を待たずして――――














✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧


 ――――八年後。


『いや、ローティーン男子二人にあっさり制覇される大陸ってチョロくねっ!?』

『ふっ、まさか内政チートで俺Tueeeができるとは思わなかったわっ!?』


 皇帝の玉座にふんぞり返るのは、女装美ショタだったネロこと、前世の俺のねーちゃん茜。


 あれから、二人で協力して力を合わせ、破滅・死亡フラグをかわし、ときには迎え討ち、へし折り、ねじ伏せていったら――――


『やればできるものね! 大陸制覇の覇王ルート! しかもシエロたんじゃなくて、このネロあたしがっ!?』


 なぜかこうなっていたっ!?


 あの日、『生シエロたん尊い』だとか言って鼻息の荒かったねーちゃんは、今では女装は偶にしかしない、麗しの美少年――――


 まさかの皇帝ネロだよっ!!


 そして、『俺』はそんな美少年皇帝ネロを支える、冷徹な宰相サマなんだとよ。


 ちなみに、攻略キャラのヤンデレ共は、フラグ折って行くうちにねーちゃんと俺に従順になって、今ではネロの統べる帝国の有能な使える重臣パシりだ。


 こうして、『俺』の命と貞操と尊厳は守られた。


 ねーちゃんの大陸制覇の伝説と共に。


 ちなみに、女の子との恋愛はまだできてない。


 だって俺、まだ十四歳だし・・・


 ねーちゃんは、十三歳。


 ねーちゃんのスペック、マジ半端無ぇなっ!?

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