フューチャーズ

小笠原寿夫

第1話

 こんな感情は、初めてかもしれない。

「東京で一華上げたい。」

否、初めてではあるまい。根本には、それが付き纏っている。父曰く、

「死にたかったら行きなさい。」

あいつと一緒に、漫才がしたい。アマチュアではなくプロとして。

 フューチャーズという幻のコンビが存在する。40代50代になっても続けていこう、と友と約束した。友は、

「若いうちしかやるつもりはない。」

と言っていた。

24歳の一年間の事だった。

「よしもとクリエイティブエージェンシー」

笑いを語る上で、その会社名は避けて通れない。大きな組織の中で、頭一つ抜けようと思えば、何か人と違うことをしなくてはならない。基礎を学んだ上で、成り立つ漫才という伝統芸能が、私を突き動かす原動力となっている。

 ネタなら俺が書く。才能はないかもしれない。だけどやってみないと分からない。芸能界を泳ぐには、才能と先輩後輩の関係が、必要になる。

 数ある職業の中で、お笑い芸人に何故そこまで固執するのか、わからない。客席でしか笑いに触れていないからかもしれない。40代になってこの夢が頭をもたげるのは、それだけその世界に魅力があるからなのだろう。芸人は、簡単に手の内を明かさない。

 だけど、天下を狙っている。

 泥臭い努力も必要だし、才能という揺るぎないものを持っていないと、大成はしない。

 百も承知の上で、やはり諦めがつかないのは、その難しさを体感しているからに他ならない。最後は覚悟だと思う。10年20年売れなくても、鳴かず飛ばずでも、下積みをこなすという覚悟。

 もし売れなかったらどうするのか。それでもやり続けるしか術はない。勝算はない。それでもやる。最高の相方が、居るから。

 漫才ブームの最中に生まれて、ダウンタウンさんを吐きそうなくらい見て来た。そういう風に育ってきた私は、やはり笑いには向いていないのかもしれない。

 唯々、プロを目指すのは、人を楽しませる職業が、魅力的だからである。

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