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 歓声が上がる。


 大広場に設置された演壇に、一人の男が上がった。


 ダークブラウンのスーツに身を固め、赤いネクタイを締めたその男は、爽やかな、それでいて軽さを感じさせない笑みを湛えて、聴衆を見渡す。それから一拍置いて、力強さと丁寧さを併せ持つ声で演説を始めた。数多の聴衆は、マイクを介して広場中に響く彼の演説の一言一句を聞き逃すまいと、波が引いたかのように静まる。広場に響くのは、彼の演説と、時折誰かが咳やくしゃみをする音だけだった。


 彼の話は、国家情勢から始まった。大国が故の経済格差、絶えない自然開発に伴う環境破壊、形を変えてなお蔓延はびこる労働問題。それでもこの自由の国に、夢を求めて流入する難民は数知れない。国家財政は圧迫され、国民への租税は年々増加する。この国家は最早限界で、八方塞がりだった。


 彼は、その全てを解決すると公約した。北の一州の州知事であった彼は、その州に山積された各種の問題を、僅か四年で殆ど解消してのけた。その手腕に希望を見出した国民は、彼を国家元首へと望み、そして彼はそれに応えた。


 彼が話し始めた解決策は、安定していて実現性があり、それでいて大胆で直接的だった。それは細部まで考え抜かれた戦略であり、同時にまだ砂上の楼閣に過ぎなかった。それでも人々は魅了された。彼らはその世界を思い描き、未だ存在しない理想郷ユートピアに想いを馳せた。


 彼の声が、流れるように止まる。一瞬の静寂の後、続いたのは広場の全て、空間の全てを揺さぶる大歓声だった。


 そして、彼の頭に燃えるような彼岸花が咲く。

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