誕生日

萩原稀有

???

 薄暗い部屋に光が四つ、淡く灯っている。


 それは、空間にうっすら浮き上がるような白と、目も痛くなるほどのあかで彩られた何かを、細く飾る蝋燭ろうそくの炎だった。


 その物体を囲んで、人間とそっくりな生物が二人、座っている。


「それじゃあ、最後のおまじないをしましょうね、×××ちゃん」


 その生物の片方——成人女性にも似た何か——が、世界のどの言語でもあり、そしてどの言語でもないように聞こえる不思議な言葉を発する。音は鼓膜を揺らしているようであり、同時に脳内に響いているようでもあり、そして全く聞こえていないような気さえした。


「最後のおまじないってなぁに、××?」

「そのろうそくを吹き消すのよ。こうやって、ふーっ、ってね」


 大きい方の生物が息を吸い込んで、吐き出す仕草をする。ほんの少し乱れた空気によって、蝋燭の炎が不安定に揺れた。とはいえ、もう一方の生物——人間ならば、四歳児とでも形容されそうな——のための蠟燭の炎を刈り取るほど、それは無能でなかった。


「分かった! 僕、やる!」

「その意気よ、×××ちゃん。それじゃあ、やってみましょう。××と一緒にやる?」

「ううん、一人でやる!」


 そして小さい方の生物が、机——と言って良いのかは分からないが、それ以外の表現のしようがない——に身を乗り出し、大きく空気を吸い込む。それは限度を知らず、故に胸が張って苦しいであろうところまでそれをその肺に溜める。

 そして、溜まった空気を一思いに開放する。横隔膜の上昇に伴って体積を縮小させた二つの肺から、余剰分の空気が吐き出されて宙を駆ける。それはさながら、屍体の肉を掻き分けて進む蛆虫うじむしのように、宙を埋め尽くす空気の抵抗に抗って、危うげに屹立する蝋燭の炎にまで届いた。

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