第25話 次はどこ行こうか会議

 熱海駅。

 改札を潜る前に『次はどこ行こうか会議』を開催する。


「どっか行きたいところはある?」

「あの世」

「この世で頼む」

「今度は高橋くんが決めたら? 熱海も、富士山も私が提案したし」

「確かに」


 腕を組んで考えてみる。

 しかし、パッと出てこない。


 ここに行ってみたい! 

 という自身の欲が湧いてこないのだ。


 今まで、自己主張というものをあまりしてこなかったためか、主体性というものが気薄なのかもしれない。


 気がつくと、七瀬が許すかとか、喜ぶかとか、そんな判断基準で考え始めていた。


「念のためだけど、私に気を遣って決めないでね」

「エスパーかよ」

「やっぱり。なんとなく、そんなこと考えてる気がしたわ」


 凄い洞察力だな。

 これは確信を持って言えるが、七瀬は人を見る能力が高いのだろう。


「……まあ、気持ちはわからないでもないけど」

「え?」

「なんでもないわ」


 難聴系主人公じゃあるまいし、聞こえてはいたが真意はわからない。

 どういう意味だろう……って、今はそれどころじゃない。


 俺が行きたいところは何処か。

 現在地は静岡県熱海市。

 

 静岡と言えば……。


「……さわやかのハンバーグが食べたい」

「さわやか?」


 七瀬が不思議そうに首を傾げる。


「そうそう、静岡のローカルファミレスの。ネットでたびたび話題になるやつ」

「SNSはノータッチだから、わからないわ」

「七瀬、つぶやきったーとかダラダラ見てなさそうだもんな」

「さほど信憑性もない無益な情報をただ流し込む作業になんの意味があるの?」

「今この瞬間、何千万人か敵に回したぞ」

「顔の見えない何千万人に嫌われてもなんら不都合は無いわ」


 さらりと言ってのける七瀬。

 芯が太いというか、他者に左右されない我の強さがあるというか、俺には乏しい部分なので素直にすごいと思った。


「それで、そのあざやかとやらはどんなハンバーグなのかしら?」

「さわやかな。えーと……ほら、これ」

「あら、美味しそうじゃない」


 スマホの画面を見ながら、七瀬が頷く。

 どうやら好感触のようだ。


「どこにあるの?」

「静岡県内なら割とどこにでもあるイメージ」

「地域密着型なのね。浜松にもある?」

「ちょっと待ってね、えっと……お、あるみたい」

「なら、浜松の店に行きたいわ」

「浜松に何かこだわりがあるのか?」


「……ちょっとね」


 七瀬が意図的にぼかしたのが分かった。

 気になったが、まあ、いいか。

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