遊び人のお仕事

うゆま@豆腐卿

遊び人のお仕事、それは…

これは、とある魔王を倒した、とある勇者と、仲間達のエンディング物語…


勇者:魔王討伐という王国の期待を背負った凛々しく強く逞しい女性

   若干常識がズレ気味だが誰にも優しい


遊び人:派手な衣装に身を包むその名の通り遊びの達人の男性

    行く先々で遊びを満喫する勇者御一行のお荷物でもある


戦士:未開地出身の騎士に憧れる男性

   乱暴者な所もあるが純粋な面もある


神官:愛されし神の使いと言われるほどの天才と持て囃される女性

   革新派のトップにして大司祭の愛娘にして令嬢でもある


賢者:人ではない長命種の古き時代からの賢者の女性

   知識と知恵は最高クラスだが彼女を知る者からは”悪知恵”とも


盗賊:世界の裏側を知る男性

   遊び人と良くつるむが戦闘面でもきちんと役割を果たす


::::::::::::::::::::::::::::::::::


勇者「魔王倒した!凱旋するぞ!」

遊び人「勇者、喜んでいる所悪いんだが、風呂入って着替えろ、早く」

勇者「え、なんで?」

遊び人「そんな敵の血や体液まみれの臭くて汚れた格好で王侯貴族の前に出る気か?勇者、せめて公的な場所に出る時の礼節は最低限のマナーだぞ」

勇者「う、うん、分かった」


戦士「遊び人ってあんなキャラだっけ…?」

神官「普段あんなに不真面目で…といいますか魔王討伐に何故加わっていたの…?」

賢者「…皆は彼の苦労を結局知らなかった訳か」

戦士「え、どういうことだよ?」

神官「一体何を…?」

賢者「戦闘以外での情報収集や交渉、実は彼がやってたの知ってる?」


戦士「マジかよ!?俺等が勇者一行ってだけでスムーズにやってると思ってたぞ!?」

賢者「そんな訳無いだろう…新しい町に近付く度に彼が真っ先に”遊んでくるぜ~”って走って行ってただろう?アレ、根回しとか交渉事やってたんだ」

神官「な、なんですって…!?」

戦士「まさかそんな事を…!?」


賢者「冒険ギルドの利用、宿泊施設の利用もスムーズだったろ?これ、勇者御一行だからと思ってたかい?とんでもない、たかが一国の王に言われただけ。地方でしか通じない話さ」

神官「で、でも、宗教関連ならば私のお父様の…」

賢者「多少はね。でも君の父上は革新派閥で地方の保守派閥とは対立中だ」


神官「あっ…!」

戦士「そ、そうか…地方の宗教施設の利用を拒まれてしまう可能性もあったのか…!」

賢者「魔王を倒す勇者御一行とはいえ、長年の派閥争いでの鬱憤は簡単に祓えるものではない。同じ神を崇めていても、世界の危機を前にしても、ヒトはそういった所で常に足を引っ張りあうからね…」


盗賊「…よっ、戻ったぜ。何だ、魔王退治したのに揃ってシケたツラして」

賢者「なに、遊び人の働きの種明かし中さ」

盗賊「ああ。あいつの手腕は凄いからな。魔王四天王の大地将軍との和解、アレもあいつの仕込みが無きゃ破綻するところだったぜ」

戦士「え、マジ!?てか、おま、知ってたのか!?」


盗賊「ああ。アイツの苦労知ったのは旅立ちの暫くしてからだったがな。あの和解に関しては遊び人と組んで裏で色々とやってたしな。賢者の悪知恵もあったが」

賢者「はは、助言と言い給え。焼くぞ?」

盗賊「やかましい、労働の殆どは俺等ばかりでおめーは安楽椅子だったろ!」

賢者「頭脳担当だもん」


神官「…全然知らなかったわよ…そんなの」

戦士「な、なんで教えてくれなかったんだ!?」

賢者「遊び人が言わないでくれってな。自分は勇者御一行のお荷物キャラでいい。駄目なやつがいれば他は立派に振舞えるだろうってな」

戦士「何だよ…それ…俺、今までアイツの事誤解して…怒鳴った事も…」


賢者「必要だからだよ。世間の目はイメージ先行だからね。遊び人がだらしなく振舞うのをしっかり咎める立派な戦士様像は大事さ。実際、君は旅立ち当初より周囲の目を気にして野蛮な振舞いも無くなった。なんたって、自分より情けない振舞いがあったからね」

戦士「じゃ、じゃあ…アイツは俺の為に…」


盗賊「半分は本気でバカやってたからそこまで気にするな。アイツに本気で感謝しないほうがいい。後々ネタにされるからな」

戦士「そ、それでも…俺は、俺は…猛烈に感動しているっ!」

賢者「はは、相変わらず純粋で涙もろいところは変わらないね。これなら安心」

神官「…っ」

賢者「どうしたい?」


神官「私、彼に…とても酷い態度を…ずっと…」

盗賊「気にするな。アイツも独りの男だ…過ちは誰にでもある。神官だけが悪い訳じゃない。嫌いなら嫌い、そう言ってやったのは正解だぜ」

神官「でも、でも…私、自分の感情で関係ない事まで彼にぶつけて…だらしない相手だからって…最低だわ…うう」


賢者「ヒトの痴情のもつれまでは担当外だ。ノーコメント。ただ言える事は、そんなに後悔してるなら彼に謝らないで、絶対にね」

神官「何故…?」

賢者「彼の役割を全うさせるのが我等が一番出来る、彼への最大の感謝の形なのだからね。そう言う訳だ、彼の働きは知らなかった態で。それが一番いいさ」


神官「ぐすっ…はい、分かりました…それが私にとっても、生涯自身への罰にもなりえましょう…最後まで貫きます」

賢者「ま、君が遊び人への治療に手を抜かなかった事は知ってるし…ま、彼には黙っていてくれと言われてるが、その高潔さに常に感謝していたと言っておこう」

神官「全く…ひどい賢者様」


戦士「そっか。旅の成功の裏にはアイツが…全部頑張ってくれていたのか。見えない所で…」

盗賊「だがそれを誰かに言いふらす真似だけはするなよ?アイツにとっては役割を果たせる事が一番の報酬だからな」

戦士「ああ。仲間として最大の敬意と共に。祖先の眠る墓場まで持って行く」

賢者「うんうん」


勇者「お、おーぃ…み、みんなーぁ」

賢者「ようやく我等のリーダーのお帰りだ。立派な身だしなみになったじゃないか。その衣装もよく似合ってる」

勇者「うう、こんなの恥ずかしい…」

神官「いいえ、とても似合ってますわ。何処へ行っても皆が褒め讃えるでしょう」

戦士「おう、皆が惚れちゃうな!」


勇者「や、やめてよぉ…ますます恥ずかしいぃ…ヒラヒラスースーしてて変だし、なんかくすぐったいぃ…」

神官「はいはい。後は歩き方をちゃんとしましょうね?折角の衣装なのに猫背では台無し。故国へ帰るまでみっちり練習特訓致しましょう!」

勇者「うえぇ…」

賢者「ところで、勇者。遊び人は?」


勇者「あれ?”皆の所に行く”って…来てなかった?」

賢者「…あ、成程。全く、彼の基本行動は相変わらずらしい。魔王退治も終わって早速羽を伸ばしに行ったんだろうな」

戦士「…ま、全く、あいつはいつもいつも!」

神官「…そ、そうね!だらしないったら…」

盗賊「全く、その通りだな、ははっ!」


**************************************


遊び人「…ふう。国への帰り道への伝達は全部終わった。最後の晴れの舞台を待つだけだな。俺の役目もここで終り…っと」

大地将軍「いいのか?」

遊び人「ああ。バカはバカのまま、物語から降りるのが大事な見せ場さ。それに、やっと肩の荷も降ろせたしな…」


大地将軍「お前の苦労は報われるべきだと思うのだが」

遊び人「一度失敗した俺にとって、ハッピーエンドを迎えられるのが何よりの報われさ」

大地将軍「…そうか。お前は、前の」

遊び人「いいや。やっぱり俺はズルくてヘンタイで最低の遊び人さ。失敗の一つ二つなんて、多過ぎて覚えちゃいないさ…」


大地将軍「頑固者め」

遊び人「アンタに言われるなら相当な褒め言葉だ。光栄だよ」

大地将軍「…お前に、願いたい事がある」

遊び人「…聞いてやるよ」

大地将軍「魔王軍は瓦解した。そして残った大地の我らはヒトと関わらぬ場所に移る事を決めた。だがきっとそれは、苦難の連続の旅になるだろう…」


遊び人「その旅のお膳立てでもしろってか…」

大地将軍「嫌か?」

遊び人「いや、面白い。とっくにエンディング終らせた俺に、別の話が許されるってなら…付き合ってやるぜ。ハードモードなほど俺は燃えるんでね」

大地将軍「感謝しよう。ではまだ見ぬ未知、余白の大地へ共に旅立とう」

遊び人「おう」


******************************************


勇者一行は故国にて皆に喜ばれて迎えられた。凛々しく、そして可憐で、美しき勇者の姿は、多くの人々にもう魔王の脅威に怯えなくてすむ日々が到来した事を告げていた。世界は救われた。勇者の仲間はそれぞれの道へ進み、平和の為に尽力したという…。


ただ、そこにいるべきだった一人の男については、勇者の仲間以外は殆ど誰も覚えておらず…そして忘れられていった。伝説にも、歌にも、詩にも、その存在はほんの少しばかりあるだけだった。


意地の悪い賢者が遺した「裏歴史書」だけには、勇者一行の真実がキッチリ残され、遊び人の事も残されていた。


《遊び人のお仕事/おわる》

#とうふのたんぺんしゅう より

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遊び人のお仕事 うゆま@豆腐卿 @uyuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ