「こうして灰色猫は猫又となった」気紛れ短編1
秋之 鵺
一話
陰陽師が存在し妖怪や鬼が跋扈する時代
拡大する妖怪や鬼による人間への被害に、
人々が絶望に包まれ始めた頃、刀一本で妖怪らと戦う用心棒のような者たちが現れる
彼らは何処にも属さず、農民や町人商人、ときには武家から持ち込まれる妖怪たちに関する依頼を受けては、それを退治、解決して報酬をもらう
別名を妖怪狩り
これはそんな用心棒を生業とする一人、榊平兵衛の話
平兵衛は朝から住処であるぼろ屋の床でごろごろ転がっていた、二か月以上依頼がない
癖のある性格は、金持ち連中からとても受けが悪かった
都とは魑魅魍魎そのものである、というのが平兵衛の考えだ
「・・・腹減ったな」
依頼がなければ飯も食えない、腹の足しにでもなればと拾ってきた野草を噛みながらどうしたものかと考えていると、一人の村民が訪ねてきた。
「平兵衛さん、相談があるんだ・・・あんたはおかしい奴だが腕は立つと噂を聞いた」
「おかしい奴は余計だが、どうした?」
ごろごろと床を転がりながら答える
「村のはずれに崩れかけた小さな民家が一軒あるんだ、そこで、ずっと猫の鳴き声がするんだ、村では猫又かもしれないともっぱらの噂でさ」
「それだけではなんとも言えんなぁ」
「年寄り連中の話からすると、どうやら五十年前ほど前から鳴き続けているらしい」
「五十年、ねぇ。誰も様子を見に行っていないのかい?」
興味がなさそうに平兵衛は尋ねる。調べてみたらただの勘違いであった、なんてことは少なくない
「誰も寄せ付けないように雑草が生い茂ってるし、誰もあんなとこに近寄ろうなんて思わせんよ、人の声が聞こえてきたなんて話もある、ありゃあきっとろくでもないもんだ、
頼むよ平兵衛さん」
「分かった分かった、一応調べておこう」
気乗りしないとはいえ食うものがない現状、小さな依頼でも受けなければならない、同業者のようにうまく立ち回れれば食うものに困るなんてことはないのかもしれないが、生まれ持った性格というのは簡単に変わるものではない
平兵衛は立ち上がり、長い髪を後ろへ束ね髪紐を巻いてから愛刀を腰へ差す
「それで報酬の話なんだが・・・」
尋ねると村民は懐から笹包みを取り出して平兵衛に差し出した
「白米と雑穀の握り飯が二つ入ってる、村のもん皆で協力してなんとか少量の白米を手に入れたんだ」
貴族しか白米を食べることしか出来ない時代、少量とはいえそれを手に入れる事の大変さは平兵衛もよく知っていた
久しぶりの白米を目にし、平兵衛のやる気にも火が付く
「確かに受け取った、では行くとしようか、村まで案内してくれ」
村は半日ほど歩いたところにあった、道中、我慢出来ず握り飯を一つ食った、久しぶりの
しっかりとした飯の味に、身体の奥から力が漲ってくるようだった
「じゃあ平兵衛さんよろしく頼むよ、仕事が終わったらおらの家に寄ってくれ、最近収穫した野菜があるからよぉ」
平兵衛は軽くうなずいてから、件の民家について村民達に話を聞いてまわる
話を聞いてわかったのは、五十年ほど前に
一人のおばあさんと鈴という名の小さな子供が住んでいたという事
そして、その鈴という子供がどこからか猫を拾ってきて育てていたという事だった
鈴は山菜取りの最中妖怪に襲われた、元々病気がちだったおばあさんは心労も重なり、子供の後を追うように亡くなってしまった
当時の現場を目撃した住民は存命ではなかったが、おばあさんと鈴の話は一つの話として伝承されているようだった
「それから50年か、、、普通の猫なら生きてはいまい」
生きているとすればそれはまさしく妖怪だ
平兵衛は民家の詳しい場所を聞き出し、さっそく様子を見にいくことにする
村の外れ、周囲には何もなくぽつんと小さな民家が建っていた
荒れ果てた畑には好き放題雑草が生え育っている、入り口に近寄るためには草をかき分けて進まなければならなかった
民家のすぐ裏には大きな山が聳え立つ、恐らくあの山の中で鈴は襲われたのだろう
「妖怪め・・・」
平兵衛の拳に力が入る
藁の屋根には所々穴が空き、壁も崩れ落ちて中が少し見えている
そんな今にも崩れそうな、二人で住むにはいささか小さすぎる家に近づくと、
「にゃー、にゃー、にゃー」と鳴き声がする
中に入ろうと慎重に戸に手をかけたところで、平兵衛は軽い眩暈に襲われる
目を閉じると何処かの山中の景色が見えてきた
「これは・・・記憶か?」
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